三隅炎雄

摩天楼の男の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

摩天楼の男(1960年製作の映画)
4.7
野村孝監督、二谷英明主演。ダム建設現場を舞台に労働者と工事を妨害する暴力団との闘いを描く。まるで山本薩夫の映画を日活アクション映画の形式に落とし込み読み直したような異色作で、労働者の誇りと連帯、不屈の闘志が、聳え立つ摩天楼に喩えられるようにして理想主義的に歌い上げられている。東大在学中に全学連の幹部だった野村孝演出もいつになく力がこもっており、野村にとっても二谷にとっても代表作と言っていい優れた作品だ。現場監督二谷と殺し屋ユセフ・トルコのステゴロ、少年になりすました潜入カメラマン清水まゆみの恋と冒険等々、娯楽映画としての楽しさも充分だし、丹波哲郎より木浦佑三が活躍する映画というのも愉快ではないか。音楽の松村禎三も面白い仕事で、団結を訴える二谷の演説を引き継ぐように誇らしく高らかな合唱で終わるのが、いかにも労働者の映画だ。脚本は星川清司・熊井啓。配信によって星川の日活での異色作群を鑑賞できるのはありがたい。これはきちんと発見されるべき映画だと思う。
三隅炎雄

三隅炎雄