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戦争と人間 第三部 完結篇のKUBOのレビュー・感想・評価

戦争と人間 第三部 完結篇(1973年製作の映画)
4.0
たいへん見応えのある三部作、計9時間23分という大長編ではあったが、「完結篇」と言うのに、え?ここで終わるの?と言ったところが率直な感想。だって、この後、日米開戦、太平洋戦争とクライマックスが全く描かれないし、後で述べるが、伍代家の家族が戦後、それぞれどのような最後を迎えるのかが一番のテーマだと思ったのに、う〜ん、残念!

本格化する「日中戦争」から始まる本作。

「南京大虐殺」本編中では中国人30万人の犠牲者と出るが、東京裁判では20万人以上、数千〜数万とするもの、果ては「無かった」とする極端な意見まであるが、この30万人はその中での最大値である中国側の主張。サンケイなんかは30万人は当時の南京の人口以上だ、として「虚偽だ」と主張している。

なんにせよ、当時の日本軍の蛮行は目に余るもので、作品内に挿入される記録フィルムの中に残る生首や髑髏の山は見るのも恐ろしい。ナチスのユダヤ人虐殺となんら変わりない。

そしてクライマックスは「ノモンハン事件」。南で中国と戦争しているのに、北でソ連(ロシア)と二正面作戦 ってバカじゃないのか? さらにこの後、アメリカとも開戦するって言うんだから、冷静に考えれば勝てるわけないじゃないの! それでもこの当時の日本軍は士気が高ければ勝てるとか意味わからない思い込みでどんどん戦局を広げていく。

「完結篇」のクライマックスだけあって、CGのない時代にソ連軍戦車の大行列! 爆薬の量もハンパない!

北大路欣也の言う「俺は敵と戦ったんじゃない。戦争と戦ったんだ。」という台詞が深い。

だが、このノモンハン事件で終わってしまう。本当に「え?」って声が出た。

中国兵といっしょにいた標(しめぎ)はどうなるんだ? ノモンハンから帰還した俊介(北大路欣也)はどうなるんだ?

この作品がおもしろいのは、伍代家の中の男たちにもそれぞれ考え方に違いがあること。

新興財閥の当主「由介」(滝沢修)は戦争を冷静に分析しながら会社の経営に役立てようとする。次男「喬介」(芦田伸介)は軍部に深く入り込み満洲伍代の儲けが出るように関東軍さえ動かそうとする。三男「英介」(高橋悦史)はおめでたいほど日本軍の勝利を盲信する当時の典型的な日本人。

娘たちは、長女「由紀子」は軍人の「柘植」(高橋秀樹)との悲恋を諦めて政略結婚を受け入れる。次女「順子」(吉永小百合)は恋人「標」(山本圭)の志を継いで伍代家を出る。

伍代家のひとりひとりが、さまざまな日本人の姿を代表しているキャラクターメイキングは、この戦争が終わった時にそれぞれのキャラクターがどういう成長を、どういう末路を迎えるのか、がテーマの本質になるのだろうし、「太平洋戦争」前に唐突に終わるのはたいへん残念。

聞けば「東京裁判」での伍代家の面々の戦争責任まで映画化する『第四部』の構想もあったが実現しなかったとのこと。

調べたら、五味川純平の原作はこの続きがあるそうで早速Amazonで Kindleにダウンロードした。だってここまでじゃ消化不良で終われないでしょ。続きは読書で完結させます。

*素晴らしい作品ではあったが、基本的にリベラル寄りの私が見ても、客観的な事実というよりかなり左寄り。共産主義者は正義だし、この作品が公開された1970〜73年は「東大安田講堂事件」とか「浅間山荘事件」などが起こっていた時代。当時の左翼運動にも影響を与えていた作品なのかな? 右寄りの人たちはこれを自虐史観とか言うけど、映画に限らず作り手の思いで「右寄り」にも「左寄り」にもできる。見るべき作品だとは思うが、私たちはそれを鵜呑みにして感化されず、客観的に取り込んで考える素地にしていかなければならない。
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