シズヲ

仮面/ペルソナのシズヲのレビュー・感想・評価

仮面/ペルソナ(1967年製作の映画)
3.9
失語症のように振る舞う女優、その世話役になった看護師。海辺の別荘での奇妙な共同生活、そして自己の混濁と内省。終始に渡って抽象的な演出で映画が進行していき、それ故に上手く咀嚼し切れなかった部分も少なくない。しかし作中で提示されるテーマそのものは寧ろある意味で明瞭。感覚的でありながらも一貫した論理のようなものを感じる。ベルイマン監督作はこれまで殆ど手を付けていなかったけど、その後の作家達に影響を与え続けたことへの納得がある。

モノクロで撮影された映像がやはり秀逸。陰影のコントラストが際立つ屋内での撮影、何処か寂寞感に溢れた海辺の広々としたカットなど、虚無的で静謐な美しさに溢れた画面構成の数々に唸らされる。そんな場面の合間に時折挟み込まれる大胆な編集は鮮烈で凄まじい。そういった映像に加えて、空間的にも展開的にも“主役二人の掛け合い”にほぼ終始している閉鎖性もまた印象深い。

語り続けるビビ・アンデショーン、沈黙するリヴ・ウルマン。対照的な両者の演技は実に秀逸で、登場人物らの心が確かに宿っている。限定的な空間と登場人物によって描かれる本作は宛ら舞台劇めいてるけど、役者の表情を極端なクローズアップで捉えた撮影や要所要所での異様な編集は寧ろ“映画的”に尖っている。目まぐるしく繰り広げられるサブリミナル的な演出、視点を変えながら同一のシーンを二度繰り返す下りは特に強烈。

“表層”と“本心”の狭間に囚われ、傷を抱えながら生きていた二人。彼女達はやがて内省的な世界へと踏み込み、自我の混乱へと進んでいく。“嘘を付き続けることに疲れ果てた女優”と“自分を嘘で固めてしまった看護師”、互いに合わせ鏡となることで意識が一つに溶け合う。二人の物語は次第に“感覚”の世界へと沈んでいくけど、それでもなお“言葉”によって本作のテーマは確かに語られ続ける。語り口こそ観念的であっても、話自体はあくまで“人間”について掘り下げているんだなあ。この時代において“母性の拒絶”という女性の心理を掘り下げているのが印象深い。
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