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青春怪談のたくのレビュー・感想・評価

青春怪談(1955年製作の映画)
3.7
親子2世代の恋愛事情をコメディタッチで描く市川崑監督1955年作品。連れ合いを亡くした独身同士の親世代と、あっけらかんとした子世代の価値観の違いが浮き彫りになってて、そこに百合要素が絡んでくる。タイトルにある「怪談」は、恋愛に潜む狂気のことを言ってるのかなと思った。原作は1954に読売新聞に連載された獅子文六の小説で、日活版の本作と別に新東宝版も制作されたんだね(なんと封切り日まで同じ)。本作が映画初出演となる芦川いづみが初々しいことこの上ない。

製薬会社の重役である宇都宮の息子の慎一は、イケメンで女性にモテつつも徹底した合理主義者。顧客に対してもあくまで実業家としてドライな対応を取っており、色恋沙汰など入り込む余地がない。彼の幼馴染の千春がこれまたサバサバした性格で、まるで男に興味がないように見える。この二人がそれぞれ連れ合いを亡くした親同士をくっつけようと奔走する展開で、いかにも昭和の頑固モノらしい千春の父親と、いつまでも女学生のような天真爛漫さを持つ慎一の母親というちぐはぐな組み合わせが果たしてどうなるかというのが見どころ。

千春と話すときの慎一がおネエっぽい喋り方だったり、千春を恋人のように慕うシンデと千春との関係など、ちょっとLGBTQ要素を感じさせるのが面白い。互いに恋愛感情を持たない慎一と千春が、両親をくっ付けるために打算から結婚するのが昨日観たばかりの「正欲」と似たシチュエーションでびっくり。法律上、互いの子ども同士が結婚して義理の親となった二人が結婚できるのか?と思って調べたら、養子縁組を結ばなければ問題ないんだね。あと、会社重役の宇都宮が報酬を現金で受け取るのがいかにも時代を感じさせる。本作は死を匂わせて宇都宮に結婚を決心させる慎一の母親、恋煩いから病気となり喀血するシンデ、嫉妬からえげつない手段で慎一の邪魔をするバーのママなど、恋愛によって狂わされる女性が登場し、その女の怖さを「怪談」という言葉に象徴させてるように思った。
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