たにたに

失われた週末のたにたにのレビュー・感想・評価

失われた週末(1945年製作の映画)
4.2
【悪意の輪】2023年39本目

ニューロティック映画の代表作。
戦後間も無く公開された本作は、主人公のアルコール中毒を通じた、政府への痛烈な批判を含んでいる。

ハリウッド映画はヘイズコードによって規制された時代。本作はアル中というものをまるで麻薬中毒のように恐ろしくホラーに描く。観客に精神的なインパクトを与えるからこそ、当時としてはかなり挑戦的な作品だ。帰還兵がPTSDになって精神的に苦悩する様とも共通する点もあり、本作はアカデミー賞を獲得する。

主人公がアルコールに頼るしかないのは何故か。それは、作中で語られる。
"なりたいものになれないから"だ。
彼は小説家を目指すも、一向にその才能は開花しない。
自分の夢描く姿が、子供時代と大人時代とではギャップが大きかった。
自分には才能はなかったんだ、、
そうしてアルコールに取り憑かれていく。

グラスの水滴で出来上がるテーブルの上の輪っか。これを、彼は"悪意の輪"と呼ぶ。
なんて洒落た言い方だ。小説家としての片鱗を見せているではないか。

そんな彼を支えるのは、タイム紙で働くOLの彼女。ダメな男に惹かれているのか、どれほど裏切られても彼の成功を願っている。彼女がいなければ、本作の結末は変わっていたに違いない。

映像表現も見事。光と影を使ったフィルム ノワール的表現。
アル中で叫び狂う男。ネズミの血を吸うコウモリ。階段から転げ落ちる主人公の視点。電飾の上に隠したボトルが神秘的に浮かび上がる影の表現。運命的に戻ってくるずぶ濡れのタイプライター。全て好きな表現でした。

とにかく何事も摂取しすぎるのはよくありませんね。。
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