よしまる

007 スカイフォールのよしまるのレビュー・感想・評価

007 スカイフォール(2012年製作の映画)
3.6
 ひとりダニボン祭、3作目は50年の歴史の中で最高傑作と名高いスカイフォール。50周年だけにレビューも長いです。先にお詫びしとこw

 30代前半でアカデミー監督賞を手中にしているサムメンデスも50手前。12年ぶりの英国出身監督として007を手がけた。撮影ロジャーディーキンス、音楽トーマスニューマンというおなじみかつ鉄壁の布陣で、どう贔屓目に見てもこれまでのボンド映画とはステージの異なる高品質な作品になっている。

 アクション、ロマンチシズム、心理戦など見どころが多く各人物の個性も強い。Q、マネーペニー、アストンマーチンといった伝統的キャラクターも登場し、古くからのファンもダニボンからの新しいファンも納得の大作と言えるだろう。

 ピアボンまでのボンド映画が「ノリ」を身上として「ま、007だからね」と許されてきたのを、一気にリアリティーのあるスパイ活劇ものとしたのがダニボン。けれどもそれは同時に、おちゃらけたジェームズボンドとは異なるリアルなスパイとして既に歓迎されていたイーサンハントやジェイソンボーンを、本家の意地としてさらに踏み倒すだけのクオリティを求められることでもあったはずだ。

 ボクはこれをちょうどライミのスパイダーマンやノーランのバットマンが、所詮子供向けと揶揄されていたアメコミを大人向けにシフトさせたのと同じ感覚で捉えていて、バカバカしく笑かしてくれるんじゃないのなら、本気で楽しませてくれよという目に、見る方も切り替えさせられたと感じていた。

 で。蓋を開けてみるとまさしくダークナイトトリロジーのセンスを踏襲していて、メンデス自身も影響を受けたと公言している。もちろん先にあげたスパイの後輩たちもヒーロー映画も、多かれ少なかれボンド映画に影響を受けているのもまた事実。どちらが良い悪いという話では全くない。けれどもスカイフォールを観て、これだけの高品質な映像クオリティを見せておきながら、どこか骨のない、見た目重視の映画と思えてしまったのだ。

 と、いうことでこのあたりからネタバレ全開でいきます。絶賛したいからこそのツッコミが連打されますので、観てない方、読みたくない方はまた別のレビューでお待ちしております🙇‍♂️


















 007の醍醐味であるアバンタイトル。シリーズ屈指のハイテンションで、この15分間のオープニングだけで構想4ヶ月、リハ3ヶ月、撮影2ヶ月と、1年半かけたそうだ。
 冒頭がクライマックスと言われるのも仕方のないところだけれど、それ以上に残念なのはこれだけ緊迫していてもボンドが死ぬわけないのは分かっているし、どうせ死んだと見せかけて次のカットでは南の島でイチャコラしてんだろう?と思わせるのがジェームズボンド。それが50年の重み、ということをわかってたらこんなリアリティのあるシーンはさほど意味を持たせられないと気づくべきではないかと思う。

 やはりリアリズムの中では許されなかったのか、ちょっとベッドで侍らせてるだけの描写にとどめられる。おかげで何のために呑んだくれ休暇が必要だったのか、いつの間に復帰試験に落第するほど年老いてしまったのかと、いつものボンドなら気にもならないことが最後まで気になってしまう。

 これまでのオトボケ科学者から一転して理系男子に託されたQのキャラクター。若手ながらボンドと張り合うセリフの応酬こそ面白いものの、秘密兵器は地味で面白くもなんともない。ワルサーに仕込んだGPSもボンドの無双後にようやくヘリ登場でセブリンの死はなんだった?ってなるし、駅での追跡劇も防犯カメラの目視というローテクぶりがすごい。テーマ曲で颯爽と現れるDB5も、シフトノブに仕込んだスイッチを見せるだけでカーチェイス無し。
 キャノンボールでロジャームーア本人が吹っ飛んでるだけに、今さら助手席を飛ばすことができないのもまた、リアリズムの金縛りに遭っているということかもしれない。

 結局、ダークナイト的な絵を撮りたくて、ホームアローンを参考にして(これはボクが勝手に決め付けてるのではなくて、ともにメンデス監督自身の弁だ)スカイフォールという地にMを連れさらうボンド。Mを守るための籠城作戦が得策だと思う観客は少ないだろうけれど、ボンドのロマンチシズムと、Mの最後を描くにはこうするしかなかったのだろう。ボンドはシルヴァを、シルヴァはMを殺すチャンスはまあまあ有ったはずだけれど、どうにも歯痒い展開を経てMの絶命へと着地する。

 最後に種明かしされたマネーペニー。おお、お前が!と驚かされかけるがよく考えたら結局最初の狙撃は私の無能のせいでした、でしかなく、サプライズのためのサプライズ。
 つまるところはどれもこれもがカッコいいボンド、アッと驚く名シーンのためのストーリー。復帰試験に落ちることも、落ちても復帰することも、それ以外の理由があまり感じられない。けれど、それこそがこのリアルなボンド像に求められた唯一の答えでもある。ちょっとおかしな理屈でも、この青い瞳のダンディズムの前ではねじ伏せられるし、スパイとしてのリリシズムに胸を熱くさせられる。これが本当に面白い007、そのことに間違いはなかった。

 画面とのシンクロ率が半端ないトーマスニュートンの王道盛り上げサントラも、アデルの主題歌も超一流で、観た後の脳内リピートにも苦しめられる。

 一部の例外を除き、ボンドと肉体関係を持った女性、特にメイン以外のボンドガールは生きてエンディングを迎えられない。果たして、ピアボンから17年勤め上げたジュディデンチのMも、ついにボンドと関係を持ったのだろうか。
 
 長いレビューのまとめがそれかい!