教授

グリーンフィッシュの教授のレビュー・感想・評価

グリーンフィッシュ(1997年製作の映画)
-
イ・チャンドンのデビュー作。
驚くほど純粋な「デビュー作」という初々しさと、気負いと、丁寧さに満ちた映画。
後年の、圧倒的な技巧や、徹底された演出手腕と比べて、本当に手探りで映画の撮り方を学んでいったという実感がするほど、青々しくて新鮮。

それはマクトンを演じる主演のハン・ソッキュ然り、とっても若いソン・ガンホ然り、なんだか現代の韓国映画の草創期たる原石のような瑞々しさが溢れている。

一方で後年のイ・チャンドン的な作風としての、街と人の関係、あるいは街と時間の関係を画面に映し出すというのは既に全開している印象。
再開発によって都市化していく中で、暴力が自然と派生し、人との繋がりが希薄になっていく様を冷淡に切り取ってもいる。

意外なのは次兄と警官とのコメディ演出もあり、劇場でしっかり笑いも起きていて、渇いた画面や作劇や、俳優の巧み過ぎる演技の生むシリアスさに対しての「緊張と緩和」が表現されていて、充分に面白さがある。
これらのスタイルはイ・チャンドンだけでなく、韓国映画におけるノワールは、北野武監督の影響は確実にあると思われる。

特に、目標も持たず、飄々と虚無感を漂うだけに見えるマクトンが、その自分に対する関心よりもまず家族や愛する人のことを自然に優先してしまう実は「利他的」な人物であることの対比として、家族であったり、テゴン社長(ムン・ソグン)をはじめとする登場人物は、なんであれ「利己的」であることも、さりげなく示される辺り、映画として、という表現が見事当てはまるほど、価値のある映画体験だった。
教授

教授