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キャンディ・マウンテンのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

キャンディ・マウンテン(1987年製作の映画)
4.0
【ロバート・フランクの「オン・ザ・ロード」】
写真家ロバート・フランクが『断絶』の脚本を手がけたルディ・ワーリッツァーと撮った『キャンディ・マウンテン』。以前、clubhouseでオススメされた。ついに遭遇したので観てみたらかなり面白かった。

ロバート・フランクは写真集「アメリカ人」を出版する際にジャック・ケルアックと出会って序文を書いてもらった。その後、彼が脚本を務めた短編『Pull My Daisy』を制作
している。それを踏まえた上で、『キャンディ・マウンテン』を観ると、どこか「オン・ザ・ロード」を彷彿とさせるドラマとなっている。売れない、イキりミュージシャン。彼は売り込みに行くものの、「うぜーな、明日事務所に来い!」と遇らわれる。恰好だけが取り柄の彼が伝説のギター職人エルモア・シルクを見つけられれば、人生が変わるのかもしれないと旅を始める。

「オン・ザ・ロード」では、サルがカリスマ性を持った男ディーンに羨望の眼差しを向け、路上を疾走する中でいつの間にか、彼は家族を持ち、路上を卒業してしまう物語であった。本作も、路上のグダグダな旅を通じて現実に直面していく物語となっている。写真家が映画を撮ると、『仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)』のアンダース・エドストロームや『RAY&LIZ』のリチャード・ビリンガムのように静の構図に被写体を押し込める傾向がある。

一方で、ロバート・フランクのカメラはよく動く。冒頭からして、ビルの中を360度パンしながら、とある日常を絵巻のように捉えていく。狭い部屋の中も、カメラを回転させながら、奥行きの深度を変更していく。車と共に横移動する。とにかくカメラが動き回るのである。そして、静の構図も、ベタでありながら絶妙な距離感となっており、車内から撮る正面ショット、少し窓から身を乗り出して撮る構図が美しい。車をいかにカッコよく撮るかに拘った撮影が観られるので魂揺さぶられる。

映画はケルアックの小説のように、唐突に感傷的に終わる。彼の前に現れる謎のギター。それはイキりギタリストである主人公そのものを象徴しており、味わい深い着地点となっていた。東京都写真美術館で上映されてほしい、いやロバート・フランク特集をやってほしいなと強く感じたのであった。
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