タンシロ

ニュー・シネマ・パラダイスのタンシロのレビュー・感想・評価

4.2
原田マハの小説「キネマの神様」を読んで、どうしてもまた観たくなり十数年ぶりに鑑賞。以前は学生で、現在は子持ちの社会人ということもあり、抱いた印象に大きく違いがあったことに驚いた。少年トトが映画を好きになり、心のおけない友ができ、女性を好きになり、旅に出て、成功し、生まれ故郷に帰ってくるのだけれど、トト自身の大きな変化に対し、トトの故郷はほとんど何も変わっていなかった。時間が止まっていた?そう感じてもおかしくはないが、人々は確実に老けており、街も老朽化している。人々は廃業し取り壊されるシネマ・パラダイスを見つめている。圧倒的なノスタルジー。思い出せばいつでも鮮やかにあのにぎやかな時代が蘇るが、ひとつの時代の終わりとして捉えると悲しいだろうし、よき時代のよき思い出として胸のうちにしまえば悲しさはない。トトは後者だった。本当はずっと帰ってきて、悩みや葛藤、胸の内をアルフレードにぶちまけたかったのかもしれない。でも故郷には帰らず、自分の力で、自分の夢に邁進した。だから思い出の姿形がなくとも悲しくはならない、むしろ胸につかえていた最後のひっかかりがやっと外れた気持ちに近いのかもしれない。もしもトトに強さがなく、故郷に帰ってきていたら、きっとアルフレードからもらった形見のフィルムを観て泣き崩れただろう。
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