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ニュー・シネマ・パラダイスのKKのレビュー・感想・評価

4.8
映画を愛した人間の回想録。この作品で感じるノスタルジーをボクは決して忘れたくない。トトが幼い頃のアルフレードとの出会いは、トトの人生を決定づけてしまった。今まで古典映画への魅力をどこか受容できずにいたけど、この作品が教えてくれた。この時代の映画は小さな町の人々と外の世界との唯一の架け橋であることを。また、10歳からたった1人で映写機を回し続けるアルフレードにとっては唯一の"生きがい"だったということを。
序盤の幼きトトとアルフレードが自転車に乗るシーンは印象的であり、トトが中年になった物語終盤はずっとこのシーンが思い出された。火事で視力を失ったアルフレードが町の映画館を受け継ぎ成功させたトトの顔を撫でた途端にトトが青年になるシーンが大好きだ。理由は説明できないが、ここで大粒の涙が溢れた。そしてエレナ役のアニェーゼ・ナーノが美しすぎる。彼女の存在はトトがガムシャラで追った美しい青春そのものだ。そしてラストシーン。なんて簡潔で最高のエンディングなのだろう。アルフレードの過去ではなく今を生きろという最後の後押しを感じる最高の贈り物。ここで再び涙が流れた。
この物語のターニングポイントは3つ。1つ目はある夜の火事。ここでアルフレードは失明し、映画館と兼用の教会も全焼。アルフレードはこれによってトトの姿を視界に捉えられなくなる。そして"生きがい"の映写技師でいられなくなってしまう。奇しくもアルフレードがトトに映画の魔法"アブラカタブラ"を教えたこの夜、アルフレードの"映画"は終わり、トトの"映画"が始まったようだ。2つ目はエレナとの出会い。Nuovo cinema paradisoの成功で順風満帆な日々を送っていたトトは、ある日恋に落ちる。その恋はまるで映画のようで、映画を愛するトトは毎日幻想を追いかけ続けた。しかし現実はそう甘くはなかった。トルナトーレは誰よりも映画を愛していたが、同時に現実の厳しさに誰よりも敏感である。それが如実に現れた大恋愛の始まりと終わりだ。3つ目はトトの家出。テレビやビデオが台頭し、町の映画館の人気も衰退。トトも"生きがい"を喪失し、小さな町に残るものは皆夢を諦めたものだ。前途洋洋なトトは、そんな窮屈な世界を脱出するしか無かった。それはアルフレードの願いでもあった。トトとアルフレードの最後の会話は素晴らしいが、特に誇張するでもなく、トトが車窓から見たアルフレードの最後の姿はどこか悲哀に満ちていた。それがむしろ美しい。非現実には持ち得ない現実の美しさがそのシークエンスに現れている。
この作品は映画の繁栄と衰退に人生の希望と絶望を重ねた傑作である。なぜだか分からないけど、155分の間に何度も大粒の涙が流れた。そんなボクもまた、トトやアルフレードと同じく、映画の魔法に魅せられた1人なのかな。
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