なべ

ニュー・シネマ・パラダイスのなべのレビュー・感想・評価

5.0
 昔ロードショーで観たときには、ラストシーンで号泣してしまい、呼吸困難で死ぬかと思った。いかついDVDボックスもBlu-rayも買ったけど、これは劇場で観るべき映画と開封もしてない。そんな名作が日本初の4K上映されるというので満員御礼の新文芸坐に行ってきた。上映前にはセイゲン・オノと立川直樹のトークショー付。本編音声のリマスタリングをセイゲン氏が行ったそうで、たいそうおもしろい話が聞けた(モリコーネが素晴らしいのは百も承知だが、新音源は劇伴が悪目立ちしてたように思う)。
 さすがに若い頃とは違って、前のめりになり過ぎることなく、落ち着いて観ることができた。恐れてた号泣にも陥らず、ほどよい涙で上手に感動できた。
 改めて、映画愛に溢れるいい映画だと思ったわ。ディレクターズカット版のファンには申し訳ないが、ぼくは124分のインターナショナル版の方が好き。尺の長いオリジナルイタリア公開版をよくぞバッサリカットしてくれたとさえ思っている。エレナとの再会や恋のくすぶりの話はそれなりにおもしろいのだが、やはりテーマからはズレていて、トトとアルフレードの関係だけにフォーカスしてる方がスッキリする。2人の仲を裂いたのがアルフレードってところもなんか嫌で。DC版の雑味を濾過したピュアな感じが、珠玉味を増しているように思う。
 これは最近になってやっと気付いたんだけど、フィリップ・ノワレもジャック・ペランも別の声優がアフレコしてた。昔は、欧州の俳優は何ヶ国語も喋れてすごいなと思ってたのだ。思えばフランス映画に出てるチャールズ・ブロンソンもよく似た声の声優がアテてたわ。
 子供の頃のトトのクソかわいさ(子供嫌いな人もこれは負けるでしょ)、エンニオ・モリコーネの否応なく郷愁スイッチをオンにするメロウな劇伴(それはもうずるいレベル!)、フィリップ・ノワレの渋演技(好きな相手を突き放すってもう父親のそれじゃんね!)、どれもこれもツボだった。
 トークショーで立川氏が「当時の老練なスタッフが若い監督を全力で応援してるのがわかる」と言ってたが、あー、なるほどと長年の疑問(自分のなかの特別な一本な理由)がストンと腑に落ちた。公開当時は若い監督が大御所ぶってとか悪口言われてたけど、その感性にはちょっと違和感があったんだよな。実は若くてピュアな感性をベテランのスタッフが堂々たる画になるよう下支えしてるって奇跡が起こってたからなんだ。この映画が、純粋な映画愛に満ちていて、なおかつ名画の風格を兼ね備えているのはそういうこと。
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