YYamada

ニュー・シネマ・パラダイスのYYamadaのレビュー・感想・評価

4.9
名作コンビ【トルナトーレとモリコーネ】

〈見処〉生涯大切にしたい珠玉の作品
①史上No.1の「映画音楽」
・新進のイタリア人監督、ジュゼッペ・トルナトーレの監督第2作目であり「マカロニ・ウェスタン」専門畑にあった音楽家エンニオ・モリコーネと初めて共作した「初期」活動作品。
・本作のためにモリコーネが作曲したスコア(楽曲)はそれぞれ「映画少年トトの躍動」「郷愁」「エレナへの愛」「人生を通じた映画愛」を描き、未だにTV番組やCMで採用されるなど大変有名である。
・複数の有名楽曲がある作品は稀有(他は『ロッキー』シリーズくらい?)。本作のヒットにてモリコーネは世界的に認知度を高め、多くのハリウッド作品を手掛けるようになる。
・楽曲を聞くだけで本作の名場面が脳裏に映る。史上No.1の「映画音楽作品」と勝手に思っている。

②「アルフレード」と3人の「トト」
◆幼年期のトト
・第二次大戦による敗戦直後のイタリア・シチリア島。大戦のロシア遠征にて父を失い、母親・妹と貧しい三人暮らしをする少年トトの興味を惹き付けるのは、村唯一の娯楽である「映画」と映画技師「アルフレード」。
・トトにとってのアルフレードは「父親」であり、対等な関係でいてくれる「友人」。2人の間には確執はなく世代を超えた友情が存在する。
◆青年期のトト
・学生の傍ら映画技師となった青年トトの興味は、映画から異性に移っていく。
・青年トトにとってのアルフレードは「友人」のままであるが、トトの成功を願うアルフレードは自身を「反面教師」として欲しい葛藤が芽生える。長尺の本作「完全版」ではトトの恋人エレナとの別離を暗躍する。
・失恋と徴兵帰りによるトト閉塞感は大きい。アルフレードがトトに語った言葉が鑑賞者の胸に響く。
「帰ってくるな、私たちを忘れろ。手紙を書くな、ノスタルジーに惑わされるな。
自分のすることを愛せ。子供のとき映写室を愛したように」。
・ジャンカルド駅でトトを見送るアルフレードが生前最期の姿に。モリコーネの奏でる楽曲が素晴らしい。
◆中年期のトト
・1980's、アルフレードの葬儀に参列するため帰郷した映画監督トト。
・オリジナル版では取り壊しにあう「パラダイス座」に対する映画へのノスタルジーを、長尺「完全版」ではエレナとの再開にて再燃した青年期の回想をラストシーンの表情だけで演じている。

③トルナトーレが描く映画愛。
・敗戦による不景気や共産主義の台頭など、先行不安な世相を忘れることが出来る唯一の場所が「パラダイス座」。
・当時はカトリック教会が映画館を経営しており、禁欲の徹底のため映画のキスシーンのカットを厳命。そのコマギレがラストシーンにつながっていく。
・トルナトーレ監督が描くシチリア島の舞台が非常に美しい。村の広場への遠映、青年期の野外上映や新年の花火、ジャンカルド駅の別れ。全てが珠玉のシーン。
・また、映画史で最も感動的なラストシーン。(『ゴッドファーザー』を撮ったときのコッポラ監督と同年代である)当時33歳のトルナトーレ監督による本作の演出に対する、淀川長治さんのコメントを転載したい。
『この映画は今年80歳の私の胸をかきむしった。アアと思わず声が出た。
それはフィルムのコマギレが話のネタになっていたからだ。映画のフィルムの一片のことを昔はコマギレと呼んだ。この映画はフィルムのコマギレの魂の歌であった。
そのフィルムの心のメロディは私にはたまらなかった。
私も実は、この映画の少年のようにフィルムのコマギレを集めて夢中になった』

④大切な映画は誰にでもある
・本作品の日本公開は、1989年12月に銀座4丁目の単館「シネスイッチ銀座」にて。
・(当時資本関係にあった?)フジテレビによる執拗なTVCMによって空前のロングラン上映となり、現在も本作による単一映画館における興行記録は破られていないそうだ。
・当時、1990年1月に高校3年生だった自分訪れた「シネスイッチ銀座」は、まさに「パラダイス座」の空間だった。
・コロナ禍の2020年5月から始めた「Filmarks」500本目の記録として、本作のレビューを遺したい。
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