T太郎

レベッカのT太郎のレビュー・感想・評価

レベッカ(1940年製作の映画)
4.0
1007
久しぶりに鑑賞。
たまにはクラシック映画でも観てみるか。
という事でこれを選んでみた。
ヒッチコックのハリウッド進出第一作らしい。

かなり古い。
当然、白黒だ。
音声に若干のノイズもある。

しかし、物語が面白いので全然気にならない。
ヒッチコックの演出と俳優陣の演技に私は酔いしれたのだ。

主人公は、あるイギリス貴族の後妻となったうら若き女性だ。
名前はまだない。

いや、あるやろ。
多分。

しかし、彼女の名前は最後まで明かされないのだ。
誰も彼女の名前を口にしないし、自らも名乗らない。
これはおそらく、原作がそうなっているからなのだろう。

実は、我が国のミステリー小説にも主人公の名前が明かされない作品がある。
北村薫の日常の謎系ミステリー「私と円紫師匠」のシリーズだ。

私の大好きなシリーズである。
主人公の「私」は女子大生だ。
日常のふとした不思議を落語家の円紫師匠が解き明かすというミステリーである。

「私」は言わばワトソン役なのだが、文学少女である彼女の成長の物語でもあるのだ。

後年、「私」は出版社に就職するのだが、その出版社の先輩編集者の言葉が心に残っている。

“わたしたちが本を出版するのは稼ぐためだ。
稼がないと、いい本を出版する事ができない。
いい本を出版するために、わたしたちは稼げる本を出版する”
(あやふやだが、概ねこんな感じ)

本好きにとっては、実に有り難くも含蓄に富んだお言葉だ。
興味のある方は、是非ともご一読いただきたいシリーズである。

おっと、珍しく話が横道に逸れまくったようだ。
(毎回やで)
時を戻そう。

主人公の名前がわからないのは、私にとって甚だ不都合な事である。
よって、ここでは“よし子(仮名)”としておきたい。

よし子(仮名)は後妻だ。
一般庶民からの玉の輿。
シンデレラストーリーである。
夫のマキシムの事を深く愛している。
マキシムは時々キレるが、よし子(仮名)を慈しみ愛してくれている。

しかし、それだけでは幸せにはなれないのだ。
よし子(仮名)が入った屋敷には、前妻である“レベッカ”の影が、色濃く残っていたのである。

1年前、事故で死亡したというレベッカ。
誰もが彼女を褒めそやす。
屋敷のあちこちに残る“R”の文字。

よし子(仮名)は、突然の貴族生活とレベッカの影にビビりまくる。

最もビビり倒したのはダンバース夫人に対してだ。
彼女はレベッカ専属の使用人であったらしい。
非常に恐ろしげな人物である。
黒衣に身を包み、常に冷酷な無表情を崩さない。

ダンバース夫人は、よし子(仮名)をイビリたおす。
時に巧妙に、時にダイレクトに。

お断りしておくが、よし子(仮名)は屋敷の主的存在で、ダンバース夫人は一使用人だ。

よし子(仮名)よ、何をそんなにビビるのだ。
こう言ってはなんだが、奴は使用人なのだ。
ビシッと言ってやれ、ビシッと!

まあ、確かにダンバース夫人は恐い。
私ならチビりにチビっていたであろう。
恐るべし、ダンバース夫人!

物語の主眼は、レベッカの死の真相である。
実は彼女の死とその背景には、驚くべき秘密が隠されていたのだ。

果たして、その秘密とは!

よし子(仮名)役は、往年の名女優ジョーン・フォンテインだ。
実に美しくも可愛らしい。
ヒッチコックのどストライク女優だと言えるだろう。
無論、私のどストライクでもある。

だが、ジョーンはただ美しいだけの女優さんではない。
確かな演技力があるのだ。
いきなり上流社会に放り込まれた娘の戸惑いや恐れを、実にリアルに演じているのである。
(ビビり過ぎだが)

イングリッド・バーグマンやグレース・ケリー以前のヒッチコック作品を支えた、素晴らしい女優さんなのである。

夫のマキシムを演じているのは、ローレンス・オリヴィエだ。
爵位を持つイギリスの歴史的な名優である。
重厚なシェイクスピア俳優というイメージが強いが、この作品の彼は若くてハンサムだ。

二人とも映画界の一ページを彩った名優である。
是非とも、お見知りおきを願いたい。

普通に面白いので、敬遠する事なく見ていただきたい作品である。
ヒッチコックの張り切り具合も体感できるであろう。

あ!
あけ・・おめ
あけおめ

知らん間に年明けてた。
T太郎

T太郎