櫻

ビフォア・サンセットの櫻のレビュー・感想・評価

ビフォア・サンセット(2004年製作の映画)
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たぶん思い描いた未来のなかを思い描いた通りに生きられている人はとても稀で、少しずつズレた場所で年を重ねるうちに平気な顔がうまくなっていきながら生きていくほうが多いのではないだろうか。でもそれを悲しいとも惨めともあまり思わないのは、夢を叶えてきらきらしたまま生きていくよりも、何度も負けたり挫折したことのある人のそうして刻まれたシワやそれらを受け入れてきたからこその哀愁がすきだからだ。わたしは自分が若さのなかを生きていることが実のところ恥ずかしいし、自分で見つけたこの世界の真実めいたいくつかのことを話しても若いのにという枕詞で褒められたりしないくらい成熟した季節をはやく生きたいと思っている。そこが色鮮やかに光っていなくても、今を何度も重ねていった先ならば、そこにしかない色の世界が広がっているはずだから別にいい。

9年という歳月はふたりをたしかに変えたところもあったけれど、かつて語り合ったような心の在り方や幼い頃の記憶を絵本のように大切にしているところはあんまり変わらなかった。そのことが話していくうちにわかっていくのがお互いうれしくてたまらないというのが画面いっぱいに広がる時、あの日ふたりが見つめていたのは互いの内側にある豊かさや煌めき方と煌めいているがゆえの暗闇や虚しさだったのだとわかった。こんな風に誰かを見て、その誰かにも自分をそのようにまなざしてもらえた喜びは忘れることなんてできない。セリーヌが言っていたように、それは滅多に起こることではないから。過ぎていく時間は容赦なく過去のような顔をするし、そっくりに巻き戻すこともできないけれど、いつか出会った星々が別々のところを巡ってやがてまた交わり合うように、そうした一瞬をまた重ねられたことこそが、きっとふたりにしかわからない心の財産だった。明日からはそれぞれ違う場所で違う日常を送るのだとしても。
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