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北西戦線のpsychedeliaのネタバレレビュー・内容・結末

北西戦線(1959年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 大英帝国領下のインドで発生した宗教紛争のさ中, 叛徒に包囲された砦からカラプールという都市までの500キロをオンボロ機関車で突っ走るという決死行。ストーリーだけで言えばこんなに単純なアクション映画は無いくらいで, かつて追う者と追われる者たちとの駆け引きを徹底的に虚飾を廃して描いた『恐怖の岬』を撮ったJ・リー・トンプソンらしい, 素材の味を活かし切った傑作だろう。
 冒頭, 数行のモノローグでこの決死行の概要が語られ, その後直ぐに活劇が始まる。普通の映画だったら, 主人公の大尉がこの任務を上官から命ぜられる場面から始まりそうなものだが, 無駄な演出をしないJ・リー・トンプソンらしい省略と言えるか。しかも, それでいてこの決死行に参加する乗客たちの人物造形には無理が無く, 数合わせの"キャラクター"に堕していない。これは素晴らしい脚本術だと思う。
 製作された年代が年代であり, 大英帝国からのインドの独立戦争が主題であるため, 有色人種に対する目線は人種的偏見が多分に存在している。機関士のインド人はコミカルで調子がいい奴に見えるものの機関士としては最高のプロフェッショナルであるという魅力的なキャラクターであるが, 彼のコミカルさは白人への媚びへつらいにも繋がっている。要するに, 白人にとって都合の良いインド人だ。また, 途中で裏切り者となるイスラム教徒の新聞記者の言うセリフには一理二理ある戦争観や民族観が反映されていて, この時代の戦争映画としては一方的な白人讃美にはなっていない"良心的"な作品になっているとはいえ, それは映画的愉しみのためのピースとしてか, 或いは「他文化(恐らくは本心では見下している)に理解を持てる白人」を自任しているイギリス人にとっての自慰行為として機能していると言えなくもない。結局, 白人は最後まで高潔の徒として描かれる。初めは臆病者として登場した武器商人も, ある程度は良心的な人物として最終的には映される。もし制作者が本当に良心的だったにしろ, 当時としては味方と敵国人の描き分けはこの程度が限界ではあるだろうが。1959年のイギリス映画にこんなことを言っても意味は無いのかもしれないけれど。
 全篇を通して, 『駅馬車』の20世紀への翻案といった体の作品で, アクションシーンの派手さ, 騎馬を駆って襲いかかるイスラム教徒のカッコよさはまさに西部劇のそれであり, 砂漠地帯の照射を受ける男たちの疲労困憊の真に迫り方は, うだる暑さに蒸発する汗の臭いがスクリーンから発せられてくるようだ。映画館で見ていたら, 砂埃を巻き上げながら列車に並走する騎馬の群れを前方から映した映像の迫力に, 拍手喝采といったところだろう。
 イギリス時代, ハリウッド時代を通してJ・リー・トンプソンの50〜60年代の作品をこれで3本見たが, どれもアクション性, サスペンス性という点では文句なしの傑作揃いだった。この人が晩年にロクでもないジャンク映画を量産したのが本当に信じられない事実である。
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