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メナースのukigumo09のレビュー・感想・評価

メナース(1977年製作の映画)
3.8
1977年のアラン・コルノー監督作品。獣医の父の影響で小さいころから映画館に入り浸っていた彼は、後にジャズも興味を持つようになり独学でドラムを演奏するようになる。進路について彼は映画の道を選択し,高等映画学校IDHECへ行くことになるが、ジャズへの偏愛や経験は彼が監督になってからも活かされている。助監督としてコスタ・ガヴラス監督『告白(1970)』などで経験を積み、1974年に『France société anonyme』で長編監督デビューする。長編第2作目『真夜中の刑事/PYTHON357(1976)』はイヴ・モンタン主演ということで次作『メナース』と共通する。『真夜中の刑事/PYTHON357』は恋人が殺害された刑事が捜査を進めると、容疑者が自分になってしまい、真犯人を探し出そうとする話。アメリカ映画ジョン・ファロー監督『大時計(1948)』に70年代のテイストを加えたような作品で大ヒットする。こじれた男女の三角関係が犯罪を引き起こすという点でも『メナース』と共通しているが『真夜中の刑事/PYTHON357』では男2女1という三角形が『メナース』では男1女2と逆になっている。内容についても似ている部分と真逆な部分があり、姉妹編として楽しむことができるだろう。

冒頭8ミリフィルムの映像が映写されている。男女の睦まじい映像が記録されたフィルムが回りきって終わっても映写機を止める者はおらず、映写機がカラカラと音を立てている。カメラがゆっくりパンして浴室に入っていくとお湯が流れたまま浴槽から溢れ出していて、それでもなお止める者はいない。本来この両者を止めるべき家の主ドミニク(マリー・デュボワ)は髪から雫を落としながら、何も投影されていないスクリーンの前で魂が抜けたように佇んでいる。ドミニクに何があってこの状態になったのかが、本作の序盤では時制を前後して描かれる。彼女は父親が亡くなった後、膨大な財産を相続していた。ブドウ畑や父が設立した運送会社を持っており、部下であり副社長をしているサヴァン(イヴ・モンタン)と近く結婚しようと考えていた。しかし独善的なドミニクに嫌気が差していたサヴァンは秘かに独立を考えて、新しいトラックの準備を始めていた。そして彼にはすでに若い恋人ジュリー(カロル・ロール)がいた。サヴァンから別れ話をされ、ジュリーの存在を察知したドミニクの姿が冒頭の彼女である。
サヴァンとジュリーのデートの待ち合せ場所に先回りしたドミニクは、ジュリーにサヴァンを諦めるよう説得を試みるが、ジュリーにはサヴァンとの子がお腹の中にいると知らされ発狂する。掴みかかってくるドミニクを振り払い、ジュリーはなんとか逃げ出すが、ドミニクはそのまま崖から飛び降りて死んでしまう。翌日ドミニクの死体が発見され、目撃者の証言からジュリーは逮捕されてしまう。揉みあった時にできた首の傷や、手切れ金としてドミニクが無理やり渡してきたお金が不利な証拠としてどんどん追い込まれていく。警察はジュリーの身辺を洗っていくうちにサヴァンに行きつく。サヴァンの知らぬところでドミニクはどうにか引き留めようと自分の遺産相続人をサヴァンにしており、これに目を付けた警察はジュリーとサヴァンの共犯を疑い始める。サヴァンはジュリーを救うため自分の単独犯であるようにふるまい、タイプライターなどの証拠をでっち上げ、捜査の目を自分に向ける。
サヴァンはカナダに逃亡し、石油会社の大型タンクローリーの運転手になっていた。彼は事故に見せかけタンクローリーを崖から落とし炎上させ、自分も死んだことにして、別人となってオーストラリアでジュリーと合流しようと考えていたのだが…。

愛に呪われた男の悲劇とも言うべき作品だ。ドミニク役のマリー・デュボワは途中で死んでしまうということで出番はさほど多くはないが、本作でセザール賞の助演女優賞を獲得している。彼女の鬼気迫る演技は一見の価値がある。往年の映画ファンにとってはイヴ・モンタンが崖の近くを大型タンクローリーで走っているだけでアンリ=ジュルジュ・クルーゾー監督『恐怖の報酬(1953)』が思い出されてニヤニヤしてしまうだろう。
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