一人旅

レディバード・レディバードの一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
ケン・ローチ監督作。

一貫して社会の弱者に寄り添い続けてきたイギリスの名匠:ケン・ローチが1994年に撮り上げた“社会派+人間ドラマ”の隠れた秀作で、本作品はイギリスで起きた実話を基に作られています。主演のクリシー・ロックの熱演が見事で、その年のベルリン映画祭で女優賞を受賞しています。

それぞれ父親が異なる4人の子供を育てているシングルマザーのマギーをヒロインにして、自分の留守中に自宅が火事に遭い、その結果、裁判で母親不適格と認定され子供達全員を福祉に奪われてしまったヒロインが、カラオケパブで知り合ったパラグアイ人のホルヘと愛し合うようになり、やがて二人の間に娘も生まれるが―という人間ドラマで、ケン・ローチらしく社会の底辺で生きる労働者階級のシビアな現実をドキュメンタリータッチに映し出しています。

ヒロインは決して優れた母親ではありませんが、子供達に対する愛情に嘘偽りはありません。しかしながら、子供を自宅に残して外出したことが原因で、社会福祉局に介入され、愛する子供達を強制的に保護されてしまうのです。生まれたばかりの我が子を福祉の人間が事務的に“回収”、病室で泣き叫ぶヒロインの姿が悲痛です。

人々に寄り添うべき福祉の行き過ぎた行い、言い換えれば“福祉という権力による暴力”の犠牲となってゆく無力なヒロイン(&伴侶)の行く末をつぶさに見つめた作劇であり、近作『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)のように、英国福祉制度の在り方を問いかけた社会派の秀作であります。

蛇足)
タイトルの「Ladybird Ladybird(てんとう虫 てんとう虫)」はイギリスの童謡:マザーグースからの引用です。
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