糸くず

この首一万石の糸くずのレビュー・感想・評価

この首一万石(1963年製作の映画)
4.3
宿場をめぐる藩同士のいざこざを通して、日本の組織にはびこる無責任と弱者が犠牲となって強者が守られるシステムを痛烈に批判した傑作。

「一万と十七石の小藩といえども、馬鹿にされてたまるか」というつまらぬ意地。そのつまらぬ意地を通すために生まれる、「家康ゆかりの名槍・阿茶羅丸を掲げての道中」という大嘘。お金によってあっさりと宿場をゆずるみっともなさ。「首を差し出したら、槍を返してやる」という脅しを真に受けるも、誰も腹を切ろうとはしない無責任。嘘の始末をつけるために、槍を置き忘れた人足を侍に仕立てて「腹を切れ」と迫る非情さ。「人足は下郎であり、下郎は人間以下のクズ」という差別意識。

前半ののどかな日常と旅路の風景から一転して、血で血を洗う凄惨な殺し合いへと至る対比の見事さ。「そっちの都合ばかり言いやがって、こっちの都合はどうなるんだ」という槍の権三(大川橋蔵)の叫びも空しく、事件はなかったことにされ、旅は続き、システムは守られる。

「クールジャパン」などという寝言を聞いている暇があるなら、この映画が描き出した「ジャパン」を目に焼き付けるべし。この物語が暴くシステムこそが、まさに今のニッポンだ。
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