旅の途中で夫とけんか別れして(恐らく)道を一人歩く太ったドイツ人女性ヤスミン(自分の見た字幕ではジャスミンでした)
とぼとぼ道を行くとそこにあるのはまぁ小汚いさびれたモーテルもやってるガソリンスタンド兼カフェ。
そうタイトルにもなっているバグダットカフェそれです。
そこのカフェの夫婦は大げんかの後でちょうど旦那が飛び出しちまったあと。
とりあえずはここのモーテルで夜を明かそうというわけですが、この嫁兼カフェ・モーテルのボス、ブレンダがまぁ怖い。
まず顔が怖い。目玉ぎょろりの顎突き出して歯も突き出す。
加えて怒鳴る、物は投げる、警察は呼ぶはでとにかく攻撃的。
序盤のピリピリ感は本当に嫌な女じゃのうと思わずにいられない。つまりはブレンダ役のCCH・パウンダーさんの演技が素晴らしいということかな。
ストーリーはそういった相いれなかった人々が徐々に絆を深めるというお話なのだけれども、話の展開というかカットが凄く斬新。
例えば、ヤスミンとブレンダが和解して一気に中を深めるのにも関わらず、その和解の会話の部分はほぼバッサリとなく次のシーンでは仲良く手品に興じていたり、また別のシーンでは一旦帰国してしまうことになるのだが、もう一度戻ってきた際に、何をしてきたかの説明もなくあっさりと戻ってくる。別れのムードに反して拍子抜けするほどにあっさりと。
その後画家の男性からヤスミンはプロポーズを受けるのだが、半分ほどOKだが、ラストの台詞、「ブレンダと相談するわ」ここで終幕。帰国した際に離婚してきたのか?決局プロポーズは受けるのか?映画内であえて触れない行間のような部分を想像させる作りは、とても意識を刺激される。
相いれなかった女性二人が、切り離せないほどの深い友情(もしかしたら愛情といえるのか?)を育むというストーリーの中で、活気を取り戻していくカフェの雰囲気はとても素晴らしかった。こんな辺鄙な荒野の小さなカフェが、かけがえのない場所に変わっていくさまが清々しかった。
あとは荒野の茶色いような赤っぽいような大地に、抜けるような青空、そして給水タンク(かな?)の画が強烈に印象に残った。
そしてもう一つ印象的だったのはモーテルでブレンダにあんたは家族だともいわれて過ごしていた、タトゥー彫りのレディーが去っていく際に残していく言葉、
“Too much harmony” 仲が良すぎるわ、と。
ここは難しくて答えをはっきりと出せない。
このレディーは家族だと呼ばれることに嫌気がさしていたという感じではなかった。しかしながら、ヤスミンの働きによって活気が出て、人々の深まった絆に対して何を思ったのだろうか。
確かにヤスミンが来る以前は人間関係は破綻しないまでもぎすぎすとしている部分もあったが、ある程度の調和はあった。
嫌になれば好きに出て行けるような、気軽さもあったのかもしれない。要するに根無し草にとって居心地が良かったのかと思われる。
レディーは根無し草でなくなり、この居心地の良いモーテルに根を張ることと、そうではなくこれまでのようにいく当てのないような生活をとるかを天秤にかけて後者をとったのだろうか。
ただそうだとするならば、事態が良くなってると思っていても必ずしもすべての人々にとってそうではないんだというような、少しチクリと言われたような気がした。
そこでさっと身を引くレイディーの行動はなんか印象深くてハードボイルドな雰囲気すら感じた。
最初はコーヒーの味ですら反対意見だったのに、変わるもんですね。心の通じ合う部分でとても清々しい気分にはなれると思います。ただラストは唐突に終わってびっくり。
余談ですが序盤で出てたヤスミンの旦那いつ出るかなと思って観ていたら、ちょろりホットドッグみたいなかじってるシーンが出ただけでそれっきり。
やはり何と言うか、あれ?そのシーンはじっくりやらずバッサリと次のシーンいくんだという印象が強くて、観ていて想像力を掻き立てられる映画でした。