三樹夫

シンプル・プランの三樹夫のレビュー・感想・評価

シンプル・プラン(1998年製作の映画)
4.2
やっと秋になったかと思ったら一気に寒くなってもうこたつを出してしまった。みかんも買ったし、こたつ入りながら冬を感じる映画を観たいなということで久しぶりに再視聴。
この映画はサム・ライミの『スパイダーマン』に向けて映画監督としての実力証明します期の作品だ。サム・ライミはずっとアメコミ企画をやりたいと思っていたが、超大作になる企画の監督を任されるには映画監督としてちゃんと実力があることを認めさせないと相手にしてもらえないと考えた。デビューから『キャプテン・スーパーマーケット』まではある種のジャンルに特化して監督していたが、『クイック&デッド』以降は様々なジャンルの作品の監督をして超大作企画を任せられるだけの実力があるとアピールし続け『スパイダーマン』でやっと念願叶うことになる。ちなみに『ダークマン』は、アメコミの映画化をやりたいけど誰も自分にその企画をやらせてくれようとはしないから、だったらアメコミっぽい話を自分で作っちゃおという作品になっている。
アメコミ企画やりたいおじさんサム・ライミが映画監督としての実力証明するためにこの映画でやっていることは、コーエン兄弟の『ファーゴ』を想起するようなクライムサスペンスとなっている。サム・ライミとコーエン兄弟の関係は、編集を手伝ったり脚本書いたり映画に出たりと盟友的な関係で、この映画は『ファーゴ』を意識しているだろうと思わせる。

雪で真っ白に彩られた田舎の街で、主人公の真面目いい人とバカ兄貴とバカクズ脳筋の3人は森の中で飛行機が墜落しているのを発見する。しかも飛行機の中には大金があった。3人は大金を横領し、雪がとけて飛行機が見つかっても何事もなければ山分けしようと約束する。しかしデビルブリジット・フォンダが牙を剥き、飛行機の中に50万ドルぐらい残しておいた方が自然じゃない?という暗黒アドバイスに従ったことで事態は悪化の一途をたどっていく。
ブリジット・フォンダがデビル知将と見せかけてデビル戦犯という、ブリジット・フォンダのアドバイスが事あるごとに事態を悪化させる、死亡フラグアドバイスの使い手となっている。主人公は冒頭では真面目ですれ違う人とも挨拶を交わす好人物だったが、大金横領の計画に乗ったところからどんどんバカクズへなっていくという、つまり登場人物全員がバカクズとなっており、最初は何だよこいつと思うバカ兄貴が相対的にどんどんまともに見えていくバカクズたちのアンサンブルだ。主人公は自分は一番状況を把握していると思っているが、父親のことや兄貴のことも碌に知らない思いあがった人物として描かれている。兄貴の人生唯一の恋愛体験…ひどいよ、こんなのあんまりだよとソウルジェムが真っ黒になる。

飛行機の中にカラスがいるが、さすがに穴が開いていたとはいえ中にカラスがいるのは不自然だが、そこはサム・ライミが思いっきりハッタリをかましている。横領計画を立てる3人と木の枝にカラスがとまっているカットは、このカラスが先行きの不安を表している。
コーエン兄弟のクライムサスペンスは、それぞれのキャラが自分の思うように動いて全体像を把握しているキャラが1人もいない、キャラ同士が複雑に絡み合う群像劇が特徴となっていて、観ていてこちらも混乱すら覚えるのが楽しい。しかしこの映画ではキャラ同士の絡み合い方はかなりシンプルとなっており、主人公の目を通して劇中何が起きているのかは観ていて理解できるようになっている。

ブリジット・フォンダがとんでもない役をやっているが、でも笑った時の顔が可愛い。この映画の音楽を担当しているダニー・エルフマンと後に結婚する。
バカ兄貴の役をやったビリー・ボブ・ソーントンは、後に『FARGO/ファーゴ』に出演してサム・ライミとコーエン兄弟両方の『ファーゴ』的作品に関わっている。
計画はシンプル・イズ・ベストと思わされる映画だ。面白い映画で、しかもコーエン兄弟のクライムサスペンスのキャラ同士の絡みをシンプル化させたような観やすさもあるので間口は広いしヒットしたんだろうなと思ったらコケていた。サム・ライミの映画監督としての実力証明します期は『ギフト』以外全部コケている。ちなみに『ファーゴ』はヒットしている。
三樹夫

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