ジュン

ボーイ・ミーツ・ガールのジュンのレビュー・感想・評価

ボーイ・ミーツ・ガール(1983年製作の映画)
5.0
大昔に見て以来、今回ツタヤディスカスで借りて3回みました。とても好きな作品です。誰もが同じように歳をとっていくという当たり前のことが冒頭(だれが年老いたのかはわからない)語られる。「ぼくらはこうして今も孤独だ。何もかものろのろと重い。あまりにも悲しい。じきにぼくは歳をとる。そしてやがて待ちわびた終わりのときがくる」と。わたしは『グランド・ブダペスト・ホテル』でも言えることだけど、年老いた人がむかしを思って、ときに懐かしんで回想する映画が特に好き。途中に出てくる地図は印象的で、おそらくカラックスの影響で、『孤独な惑星』の監督が使ったものだと思う。自分史ですから。そして役者はよく、今から自分がすることを口に出して言う。たとえば「今から服を脱ぐ」とか。行動をことばに出すことでどういう作用があるんだろう(これは蛇足です)。「はじめにことばがあった」というヨハネの福音書冒頭が引用されたかと思うと、「いや、感動が先だ」と言う。信仰的にはまちがっているけど、カラックスもカラックスこそが感動や心を動かされることに一番敏感であり、求めているのだと思う。カラックスはことばがいい。途中、若い頃テレパシーで遠く離れた恋人とランデヴーをしていたという初老の女性がいる。そして欠けたカップを大切にしながら「欠けた部分で飲むなんてすてきでしょ」という。こういうひたむきさが心をうつ。こういうシーンを美しいというんだと思う。あるときその女性は、一度だけランデヴーを忘れた。するとその日恋人が死んだ。テレパシーなんてあるはずがない。でもこんな作品をつきつけられると信じることは強いんだとしか思えない。そしてその欠けたカップを大切に生き続けている。思い出を忘れまいとして。強く信じることと愛は何者にも代えがたい。すばらしい映画でした。そしてわたしはミレーユを見てショートカットがあまりにかわいくて、同じ髪型にしました。
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