はぐれ

笛吹川のはぐれのレビュー・感想・評価

笛吹川(1960年製作の映画)
4.0
農民残酷物語。黒澤の『影武者』と対となる作品。黒澤は先祖が武家だったこともあり信玄に焦点を当てたが木下はその信玄の圧政に苦しめられた農民の悲劇を描いている点が対照的で面白い。

戦の場面はあくまで物語の添え物。実は壮大なロケーションだったりするんだけどあえて絵巻物的な扱いに留めて決して我々にアクションシーンでカタルシスを感じさせてはくれない。ここに木下の作家としての矜持を感じる。

そして何より特徴的なのはパートカラーと木下忠司の音楽。原色をフィルムにベタ塗りした現代アートのような配色は長年武田家に苦しめられてきた先祖の怨念のようにも見え、劇中に何度も乱打され鳴り響く鐘の音は決して幸せにはなれない世の無常を想起させる。

そして白眉はラストのシーケンス。戦時中に戦意高揚映画として制作された『陸軍』でのラストシーンで軍部へのわずかな抵抗として民衆の万歳三唱を受けながら出征していく息子の姿を母親役の田中絹代に永遠と走らせて追わせたがこの映画でも同じようなシーンが出てくる。
負け戦が濃厚な行軍に参加する息子達に母親役の高峰秀子が延々と追いすがる。もうしつこいぐらいに何度も何度も追いすがる。そして『陸軍』では決して許されなかった「一緒に帰ろう!」という叫びをお国のためにと死に急ぐ息子達に投げかけるのだ。終始一貫したその反戦への監督の想いにただただ圧倒される。
はぐれ

はぐれ