Omizu

笛吹川のOmizuのレビュー・感想・評価

笛吹川(1960年製作の映画)
3.4
【1960年キネマ旬報日本映画ベストテン 第4位】
木下惠介中期の作品。深沢七郎の同名小説を映画化した時代劇。白黒の画面に部分的に彩色するという技法をとった実験作。戦国時代の笛吹川近くに立つ家を主な舞台とし、五代・六十年にわたる貧農の一家を描いている。

木下惠介ってけっこう実験的なことやるんよね。『カルメン純情す』では斜めに傾けたカメラ、『野菊の如き君なりき』では回想シーンを楕円形の枠で囲むなど。本作もその一環だけど、どうなんだろ。最後の方は慣れてきたけど、やっぱり部分的に色を付けるというのがノイズになっているような。

流麗な横移動のカメラワーク、叙情的で強固なストーリーテリングと流石木下惠介という出来ではある。戦国時代を舞台にしながらも、あくまで庶民の生活を描くというのも異色で面白い。

それだけしっかりとした映画なのだから余計なことしなくてもよかったのに、と思ってしまったかな。白黒で普通にとってくれたらいいのに。

部分彩色は微妙だったけど、画面全体を赤や青にしたりするのはよかった。時代の目撃者的に登場するお経を読み続ける僧侶が青い画面で捉えられるのはホラーみたいで怖かったし、寺が燃えるシーンが赤い画面になって、さらに炎は赤く着色されていたり。統一感があればいいんだけど。

高峰秀子はやっぱり素晴らしい。嫁に来た初々しい姿から老婆になるまで見事に演じている。

貧農が成り上がるために戦に身を投じるか、それとも平穏に庶民のままで生きるか。難しい選択を常々迫られる。子供を持つ親からすればそりゃ戦になんて行ってほしくない。でも出世するには戦に行くしかない。極端な選択をしなければならない当時の庶民の目線で貫かれた時代劇というのはあまり観たことがなかったので面白かった。平吉は残ってくれると思ったのに…終わり方もよかった。

強固なストーリーテリング、流麗で詩的な語り口はいつも通り素晴らしい。ただ実験は失敗と言えるかな。ノイズでしかない。これはこれで好きだけどね。
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