垂直落下式サミング

クロノスの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

クロノス(1992年製作の映画)
3.8
錬金術師の作った未知の機械「クロノス」によって、人間の生き血を欲する吸血鬼となってしまった骨董品店の老人の姿を描くダーク・ファンタジー。
クロノスなる闇のアイテムを用いた自傷行為への依存から、生命の危機を経たことで吸血衝動に駆られていく様子まで、丹念に描かれていた。
ギレルモ・デル・トロ監督の処女作。見慣れないメキシコの風景を映した映像は目が楽しい。撮影監督は、特殊効果撮影やアクションを得意とするギレルモ・ナバロ。そして、常連俳優ロン・パールマン。コワモテだけど若くて貫禄がない風貌は、むしろ新鮮。みんな、この頃からの仲間。盟友!
オープニングで、クロノスなる超常的な機械の成り立ちから何から全部セリフで教えてくれる。最初に物語の説明をしながら、作り込まれた美術で世界観に説得力を持たせていくやり口は、とてもギレルモ・デル・トロらしい。中盤の場繋ぎ的な編集は、どうしても安っぽくみえてしまうけど、すでに処女作の時点で監督の色がある。やっぱデキるクリエイターは違うね。
デルトロ映画は、ぜんぶゲテモノホラーだし、合理性を重視する理屈男のはなしを聞いているようなストーリーの組み立てばっか。だけど、世界観そのものでダークさのなかユーモアを魅力的にみせるところや、子供がイキイキしていて可愛くて、若干のメルヘンチックさもいいスパイスになっているから、意外と女性ファンが多いのも納得。
おかっぱアウロラはかわいいな。他に頼れる大人がいないから、おじいちゃんの後ろを付いていくしかない性格が不憫で儚げ。大人のパーティに連れていかれても、ずっとつまんなそうな顔しちゃって…。抱き締めてあげたくなる。序盤のロン・パールマンとの絡みは、彼女が外の世界と関わりを持てた瞬間で、ちょっとした救いのようだった。ガムあげたい!
おじいちゃんは孫と一緒にいたい。余命幾何もない富豪は不老不死を欲する。ヤクザは大叔父の遺産や権力を我が物にしたい。各々が、つり合いがとれた愚かさを抱える。細かいことは考えない沸点の低いパワー系。ロン・パールマンは、こんな役がよく似合う。