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クロノスのRのネタバレレビュー・内容・結末

クロノス(1992年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

自宅で。

1992年のメキシコの作品。

監督は「パシフィック・リム」のギレルモ・デル・トロ。

あらすじ

古物商を営む初老の男ヘスス(フェデリコ・ルッピ「黒い雪」)はある日、売り物の天使像から奇妙な金属機械を見つける。それは機械のように動き出し、中から飛び出した針が彼の手を貫くと、翌日ヘススは見た目が若返っていることに気がつく。実はそれは遥か昔にある時計技師が作り上げた「クロノス」と呼ばれる機械だった。

「配信では見られない作品を観てみよう」題して「Digりムービー」!!第二弾はこちらも前回と同じくブックオフで掘り出した、なんとギレルモ・デル・トロの長編デビュー作品。

いわゆるジャンルとしては「吸血鬼もの」ではあるんだけど、一風変わった作り。

元々ビデオリリースされた時は、「クロノス/寄生吸血蟲」というタイトルだった通り、今作で登場する「クロノス」と呼ばれる金属機械の中に入ってる吸血蟲の力なのかなんなのか構造はよくわからないんだけど、とにかくそいつに刺されると吸血鬼になるという代物によって主人公ヘススは吸血鬼と化してしまう。

ただ面白いのは、主人公ヘススが吸血鬼に「意図せず」なってしまったという点。まさか自分が吸血鬼になるとは思わず、刺されてしまった後も中毒的に魅せられてクロノス依存はあるものの、ほとんど受動的に血を吸うことはしないし、あっても死体から吸血するか、パーティー会場で鼻血を垂らした客が落とした床の血液をペロペロ舐めるくらいの無害極まりないドラキュラ具合。

なのでモンスターものとして観るとやや肩透かしは喰らうかもしれない。

それよりも特筆すべきは、主人公ヘススと孫娘アウロラ(タマラ・サナス)との関係性。主人公がおじいちゃんという点もなかなかに新鮮なんだけど、どうやら両親は他界しているらしいアウロラは幼少時からヘススとその恋人であるメルセデス(マルガリータ・イサベル「カマキリな女」)に育てられ、特にヘススとは祖父と孫娘の関係性を超えて、どことなく「禁断の恋」みを感じさせる(パーティーでのヘススとメルセデスがいちゃついたり、キスしたりする場面を見る目が明らかに嫉妬の目つきや所作が伺えるのも意図的)。

それはヘススが吸血鬼になっても変わらず、特に終盤、ヘススが一旦殺されて不死の力で蘇り、アウロラの元に現れた時も驚きもせずに匿い、愛用のでっかいオモチャ箱を棺代わりに太陽光から守る寝床を作ってあげたり、太陽が見れないおじいちゃんのために絵筆で描いた太陽を描いてあげたりとなんか泣けてくるくらい、いちいちこの関係性が愛らしい。

終盤では、クロノスのヒントが描かれた書物を持つ富豪のグァルディア(クラウディオ・ブルック「ROMERO エルサルバドルの殉教者」)の元に向かうことになるんだけど、そこにも甲斐甲斐しくついてきて、ポーカーフェイスで恐怖心を一切感じさせないままピンチに陥るヘススのためにグァルディアの部下のアンヘル(ロン・パールマン「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」)の後頭部に一撃を食らわすなどクールヒロインの立ち位置としても印象的な活躍をする(戦闘服じみた真っ赤なレインコートもまた魅力的!)。

そして、終盤の展開がまた良いんだけど、グァルディアの死体から血液を吸い、生の実感を得たヘススが怪我をして手から血液を垂らしたアウロラにも手を出そうとするんだけど、それまでほとんど感情を顕にしないばかりか、全く口を利かなかったアウロラが「おじいちゃん…。」と一言話したことで正気を取り戻し、遂には生命線であるクロノスを破壊してしまう。

ラストは吸血鬼よりも「祖父」としての生き様を選んだ、もはや見た目は完全に人間とは思えないヘススにアウロラとメルセデスが寄り添い、そのまま生き絶える切なくも哀しいラストでそのままシーンが真っ白にぼやけたまま美しい旋律と共にエンドロールを迎えるラストまで多分予算はほとんどかかっていないだろうに非常に映画的。

他にもギレルモ作品ではお馴染みロン・パールマン演じるアンヘルのコミカルなキャラクターだったり(鼻の形をヘススとアウロラに聞くくだりはほっこり)、終盤で垣間見えるクロノス内部の吸血蟲のルックだったり、デビュー作ながら、間違いなく今のギレルモ作品の片鱗が見える、ギレルモの代名詞的「異形への愛」に満ち溢れたステキな作品でした。

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