kuu

ザ・ハリケーンのkuuのレビュー・感想・評価

ザ・ハリケーン(1999年製作の映画)
4.2
『ザ・ハリケーン』
原題The Hurricane.
製作年1999年。上映時間145分。

人種差別に基づく冤罪事件である『ルービン・カーター事件』を題材として、デンゼル・ワシントンがルービン・カーターに扮して描く米国産伝記ヒューマンドラマ(多少脚色はみれるが)。
今作品でデンゼルワシントンは、ボクシングのコーチと1年以上訓練したそうです。ストイックやなぁ。

その驚異的な強さで“ハリケーン”の異名を持つボクサー、ルービン・カーター。
1966年、彼は故郷パターソンで白人3人を殺害した容疑で逮捕され、終身刑を宣告される。
無実を訴えて獄中で書いた自伝を出版し反響を呼ぶが、再審で再び有罪判決を受け、カーターの存在は次第に世間から忘れられていった。
レズラ少年が古本市でカーターの本を見つけたのは、まさにそんな時だった。
カーターの生きざまに胸を打たれたレズラは、その思いを手紙に託しカーターへ送る。。。

今作品は、ルービン・カーターの伝記『"The Sixteenth Round" 』(第16ラウンド)と、サム・チャイトン(サム)とテレンス・スウィントン(テリー)が書いた『"Lazarus & the Hurricane"』(ラザロとハリケーン)に基づいた作品で、映画全体で取り上げられたボブ・ディランの抗議曲『ハリケーン』も、カーターの伝記に基づいてる。
ハリケーン・カーターが逮捕された後、多くの有名人が彼への支持し、抗議した。
そん中でボブ・ディランは音楽を通して思いを歌って訴えたんやろな。

主人公カーターはウェルター級のタフガイ。 
彼を有名にしたのは、1963年12月20日、ウェルター級統一世界王者やったエミール・グリフィス(元世界2階級制覇王者)を1回TKO沈めた試合で、カーター は当時25歳。
ノンタイトル戦とは云っても、あのグリフィスが1回で葬られたのは驚きっす。
ボクシング誌はこの試合を 『年間最大の番狂わせ (アプセット・オブ・ザ・イヤー)』に選出した。 
ボクシングファンの周知のとおり、1962年3月、グリフィスは12回TKOで世界ウェルター級王座を奪取した強豪やった。
倒された元王者のベニー・パレットは、10日後に命を落としている。
ただ、カーターの名は、対グリフィス戦の2年半後、リングの外で、より広く世間に知られ ることとなるんは、ボクシングちゅうストイックスポーツで生きて来て勝ち取った栄誉なはずやのに、悲しい。
今作品は、対グリフィス戦の衝撃的勝利につづいて、10年後の1973年、ニュージャージー 州トレントン刑務所で服役中のカーターの姿を映し出す。その後は、パターソンの酒場で起こった乱射事件のフラッシュバック。
カーターを支援した少年は、レズラと云う。 
ブルックリンの貧困家庭に生まれた彼は、トロントの環境保護グループに引き取られて高等教育を受けていた。
カーターの著書に感銘を受けたレズラは、手紙を何通も送り、やがて面会に漕ぎ着ける。
監督のノーマン・ジュイソンは、この実話を至極丁寧に撮ってるし、お涙頂戴のヒューマンドラマを極力避け、ドライなドキュメンタリーを彷彿させるタッチを、さまざまな角度から重ねてる。
例えば、1964年12月、カーターがミドル級統一世界王者ジョーイ・ジアルデッロに挑んだ試合の場面なんかは、 接戦やったこの試合やったんやこど、採点の集計に35分を要した末、 ジアルデッロの判定勝ちに終わっている。他には、カーターを眼の敵にするイタリア系刑事の姿や、全員が白人で構成されている陪審員席の様子を描く場面とか。
背後に広がる気配は、中学生でも見抜けるんちゃうかな。
ただ、監督は1960年代米国を覆ってた人種差別の空気よりも、カーター個人の長期戦を強調したかったのか。
カーターの戦いてのは、心底粘り強く、何度挫けそうになっても白旗を掲げへんかった。
自由を求める長期戦てのは、瞬発力や決定力だけじゃ勝てへん。
強いほうが勝つんじゃなく、疲れたほうが負けるちゅう事実に気づく必要があるやと。
カーターは、身体でその事実を知っていたんやろし、それを監督は描きたかったんやろし、巧く描けてると個人的には思うかな。
kuu

kuu