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黄色い星の子供たちのakrutmのレビュー・感想・評価

黄色い星の子供たち(2010年製作の映画)
4.5
ナチス占領下のフランスで起こったユダヤ人大量検挙事件(ヴェル・ディヴ事件)を、いくつかのユダヤ人家族とその子供たちの視点から描いた、ローズ・ボッシュ監督のドラマ映画。

本作が公開された2010年には(本作の7ヶ月後に)同じくヴェル・ディヴ事件をテーマにした仏映画『サラの鍵』も公開されている。『サラの鍵』は、ヴェル・ディヴ事件を取材している女性ジャーナリストの視点から、ある鍵をめぐってユダヤ人少女・サラがヴェル・ディヴ事件をきっかけに歩んだ過酷な人生を描いていくという、メッセージ性だけではなく「見せる」映画であるのに対して、本作は凝ったストーリー構成や演出を施すことなく事件そのものを直球で描いていて、実在する人物(主人公の少年であるジョゼフ・ヴァイスマン、『アデル、ブルーは熱い色』前の幼いアデル・エグザルコプロスが演じるアンナ・トラウベ、メラニー・ロラン演じる看護師アネット・モノなど)をそのまま登場させるなど、セミドキュメンタリーのような仕上がりになっている。

ナチス・ドイツによるホロコーストを描いた映画とちょっと異なるのは、(ナチスの傀儡政権であるとはいえ)フランス政府(=フランス人)が自国民であるユダヤ人を検挙して収容所に送る(=殺戮する)というフランス人の犯罪を描いているという点にある。レジスタンス運動に身を投じたフランス人も多くいたなかで、ナチスに占領されているとはいえ、フランス国民が自国民に対して行った人道的犯罪という事実は現代のフランス国民にとっては耐え難い歴史であろうし、そのような感覚が希薄になっている若い世代に対する啓蒙という意味でも、とても重要な作品である。

一方で、フランス国内をはじめ欧米における本映画の評価が肯定的なものと否定的なものに真っ二つに分かれている。否定的な評価の中に、ヴェル・ディヴ事件の悲惨を直視せずに、フランス人の良識を強調したような描き方になっているというものがある。確かに、ヴィシー政権側の要人や検挙にあたる警察官にもどこか良識があるような描き方をしている場面はある。それが事実かどうかは別として、個人的には必ずしもそのようには感じなかった。一部のフランス人にとっては、それでは生ぬるいということなのかもしれない。ハリウッド・エンディングのように見えるラストシーンも、実際に検挙された人々のほとんどが帰らぬ人となったという事実を隠しているように見える点で批判されている。まあ確かにそう見えるのかもしれないが、映画全体から受ける印象をきちんと感受すれば、一握りの生存者がいるというのは事実であるし、それほど批判されるような描き方ではないと思う。

個人的に気になったのは、ヒトラーが出てくる場面が何度かあるが、そのシーンの必要性がよくわからなかったし、どこかおどけた感じにヒトラーには違和感があった。ジャン・レノ、メラニー・ロラン、ガッド・エルマレなどの演技は十分に見応えがある。特に、ジョセフ・ヴァイズマンの母親を演じたラファエル・アゴゲが印象に残った。
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