odyss

黄色い星の子供たちのodyssのレビュー・感想・評価

黄色い星の子供たち(2010年製作の映画)
4.0
【ユダヤ人狩りはフランスでも】

ナチス・ドイツに占領されていた第二次世界大戦時のパリ。そこでフランス人の手によってユダヤ人狩りが行われたという、歴史上の事件を描いています。

むかしは、第二次世界大戦期のフランスと言うと、レジスタンスをしてナチスと闘っていたということばかりが強調されるきらいがありました。しかし、実際にはフランスはあまり戦うこともなくあっという間にドイツ軍に敗れて占領され、ドイツに協力的なヴィシー政権ができたわけです。レジスタスをしていたフランス人もいたには違いないけれど、それが多数派であったとは言えない。レジスタンスが神話と言われる所以です。

さて、この映画ではパリ在住のユダヤ人が捕えられ、劣悪な環境化におかれ、その後絶滅収容所送りとなる様子が淡々と描かれています。と同時に、そうしたユダヤ人たちを救おうとしたり、劣悪な環境を少しでもよくしようとするフランス人たちの姿も描かれています。フランスはドイツ語圏やポーランドと違い、戦前からユダヤ人への偏見は少ない地域でしたから、これをフランス人の自己賛美とするのは僻目でしょう。

ただ、そうは言っても最後のところは、映画だから仕方がないかと思いますが、ちょっとハッピーエンドに過ぎる。また、途中でヒトラーや愛人のエヴァ・ブラウンが登場しますけれど、その描き方もややステレオタイプに過ぎる気がします。いや、ヒトラーは恐ろしげに描かれていないではないかと異論も出そうですが、今こういうテーマを取り上げるなら、ユダヤ人観をめぐる相克がスクリーンからほとばしるようでなくてはいけないと思う。

それは、今ならユダヤ人虐殺が悪であることは疑いようもないし、また当時でもそう考える人は多かったはずですが、それだけでは済まないからこそああいう悲惨な事件が起こったわけであり、それに関わった人間たちの自己正当化の論理にもきちんと触れなくては事件の全容を描いたことにはならないと考えるからです。そうした描写がないのではないけれど、どちらかというとユダヤ人の悲惨さ、そして善意のフランス人の努力が前面に出ています。それはそれで悪くないのですが、こういう映画をあえて作るのである以上、単に可愛そうなユダヤ人、(一部の)善意のフランス人というだけ済ませてほしくはなかった。ないものねだりかもしれませんが、あえて注文をつけておきます。

やや厳しいことを書きましたが、悪い映画ではないので、この点数。
odyss

odyss