アニマル泉

人類の戦士のアニマル泉のレビュー・感想・評価

人類の戦士(1931年製作の映画)
4.5
フォードの1930年代は充実している。その力量を示す作品。サミュエル・ゴールドウィン製作、音楽アルフレッド・ニューマン、主役ロナルド・コールマン。白黒スタンダード。
フォードの運動感が素晴らしい。アロウスミス(ロナルド・コールマン)の初往診の場面、アパートの入り口ごしに車から降りて手前に走ってくるアロウスミス、俯瞰ショットで階段を駆け上がるアロウスミス、男たちがギャンブルをしている部屋に突入、陣痛が始まっている女性の部屋へ駆け込む。たたみかけるスピード、ロングショットの連続にも関わらず成立してしまう力強さ、フォードの腕が冴えている。
本作のフォードはスタイリッシュだ。構図が美しい。特にアロウスミスとリオラ(ヘレン・ヘイズ)のツーショットが素晴らしい。見つめ合う二人の視線が対角線に結ばれるツーアップはハリウッド映画の黄金ショットである。ベッドに倒れ込んでのツーショットはアロウスミスがリオラを上から見つめるパラショット、これも素晴らしい。
二人の出会いも面白い。廊下で床掃除をしているリオラとアロウスミスが出会う。フォードは地面や床に女性を座らせるのが好きだ。この場面も座りと立ちの高低差が面白い。俯瞰ショットも良い。「高さ」の主題でいえば二人が店の開業準備をしている場面、リオラが台に乗ってカーテンをつけているのが印象的だ。
スタイリッシュなのは頻出する廊下の縦構図だ。
フレームショットも多い。本作ではフレームショットのポン引きが上手い。
フォードは戸口に人を佇ませるのも上手い。
照明も印影を強調したノワール調だ。暗い部屋のカーテンを開けて光が差し込むショット、あるいは暗い部屋に車のライトがサッと走るショットなど鮮やかだ。
冒頭のアロウスミスの少年時代を背中だけ押してコールマンの登場で初めて顔をみせる、堅実な見せ方だ。
フォードの「雪」。本作は夜の雪、アロウスミスをリオラが尾けて、会社の玄関のガラスドアにリオラが映り込んでアロウスミスが気づく、このくだりも素晴らしい。
フォードの「雨」「火」も展開される。「火」の主題は疫病のムラを焼き尽くす炎が圧巻だ。かたやアロウスミスがリオラの実家を訪れて食事の場面、アロウスミスがリオラに煙草を渡し、火をつける、二人の結婚に反対している親族に見せつける、実に上手い。ホークスを思い出す。フォードは子供を描く天才だが、本作は歯を抜く場面が絶品だ。子供の歯に糸を結んでピンと張る、いきなり新聞紙に火をつけて子供に振りかざすと、子供がびっくりして椅子ごとひっくり返る、歯が抜ける。この「火」を使った躍動感も素晴らしい。
煙草はリオラの感染の原因になる。このくだりの切り取ったサイズの積み重ねが面白い。ブレッソンみたいだ。フォードの前衛性が露呈されている。
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