湯っ子

2/デュオの湯っ子のレビュー・感想・評価

2/デュオ(1997年製作の映画)
3.8
同棲中のふたりの不協和音を、ただただ映し出す。男は女に肉体的ダメージは与えないながらも、大声で脅す、洗濯物を投げつける、部屋をめちゃくちゃに散らかす…これは暴力だ。女は男の暴力が止むまでは黙って耐えるか笑ってやり過ごそうとし、止んだ瞬間に反撃に出る。彼らの応酬には終わりがない。

「結婚しよう」という言葉は、ふたりとも口にするが、別れたくて言っているようにも思える。そんな自覚もなく。本人たちにもわかっていないのだと思う。でもとにかく、今の状態から抜け出したい。結婚すればなにか変わるかもしれない。でも、逆に別れ話のきっかけにもなりうる。はっきりと自分の中で言語化しないままに、今、自分たちが抜け出せないでいる状況が変わらないかと願っているのかな。

私は20代の頃、失恋する度に「この先また他の誰かに出会えるのだろうか、こんなに好きになれる人に。これから先、ずっとひとりだったらどうしよう…」みたいなことを本気で考えて真っ暗な気持ちになっていた。そして、2、3ヶ月もすると、ケロッとしてまた別の誰かにお熱を上げる。ということが、今の私にはわかっているから、「また次みつけりゃいーじゃん!」と言えるが、当時は本気でそう思っていた。若さゆえの視野の狭さから、まだ時間はいっぱいあることに無自覚だったんだろう(私がアホなだけかも…)。

思い返せば私にも、今となってはあいつはモラハラ野郎だったな、と思う彼氏もいた。相手の心変わりでフラれたが、逆にあれで助かったのかもしれない、と恐ろしくなる。
この映画では、他の選択肢があることに気がつかない、否、気づかないふりをしているのか、最後にまた優が圭のもとへあらわれるのに心底ゾッとした。
 
西島秀俊が若い。金くれ、お菓子買ってきてと頼み、ごはん食べてねと言われる。うちの息子かと思った。財布は渡さないけど。
彼女役の柳愛里の「ンアッ!」と苦しみに喘ぐような泣き方がすごく印象に残ったのと、自転車で爆走する様子が、タガが外れた感半端なくて、痛々しかった。

この映画には台本はなく、全て即興の演技だそう。観ていて気持ちの良い作品ではなかったが、この演出は成功していると思う。
湯っ子

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