サド和尚

ハード・ターゲットのサド和尚のレビュー・感想・評価

ハード・ターゲット(1993年製作の映画)
4.5
「シャツを汚してすまん」
ー20発以上弾をブチこんだ上に顔面を蹴り飛ばし殺した人に対して、一言(吹替版)

青少年真っ盛りの頃に出会い、ランス・ヘンリクセンさんの持つこだわりの狩猟用単発銃、T/C コンテンダーが随分と記憶に残っている作品。
以来、何か自分が底の方でくすぶっている時に観たくなったり、或いは何かの拍子に目撃したりと、妙にご縁がありました。
この度久々に鑑賞してみました。10年ぶりぐらい。ちょっとかなり印象が変わりました。

弾が飛び交い、蹴りが飛び出し、鳩も飛び回り、そしてヴァン・ダムも飛ぶ。本当にぴょんぴょん飛びますジャン・クロードさん。
まずの印象としては、スローモーションは笑っちゃうくらいに本当にしつこく使い過ぎだし、いったいブタ野郎は何回痛めつけられるんだと気の毒になりましたし、チャンスとナターシャはいきなり急接近し過ぎだしと、演出にしてもお話にしてもどうも雑な感じが否めません。
榴弾でもないだろうに、グレネードランチャーからではない銃撃が着弾爆発するという疑問符が浮かぶ一幕も。
また、序盤にいい蹴りが見れても、その後はしばらくお預け。もっと観せてくれたっていいじゃないですかと、悶々とさせられたりします。

しかし、そんな事がなんだと言うのでしょう。
散弾銃での接射を皮切りに、徐々に上がり始めるお話のギア。これまでの鬱憤を晴らす如く馬鹿みたいに連射されるベレッタ92FS。蹴るわ撃つわ飛び出すわと大立ち回りのジャン・クロードさん。
そして最終盤の、怒涛のアクション。止まらない止まらない。鳩も飛ぶ。糞も落とす。流れる様にオーバーキル。いったいどれだけ穴あきチーズを量産すれば気がすむのか。
合間合間にひと呼吸挟みながらも、凄まじい勢いを維持しながら一気呵成に畳み掛けてきます。
「撃つ→相手は死に体だが倒れず→倒れない程度に顔面回し蹴る→まだ撃つ」あたりなんて、本当にどうかしているオーバーキリング。圧巻です。
そのくせ、最後は変に後日談などを引っ張ったりせず、スパっと終わる。素晴らしいことだと思います。

音方面にも随所にこだわりが見られます。
舞台となるニューオーリンズを想起させるブルース、ジャズの要素を取り入れながら、新潟県から世界を舞台に叩き抜く和太鼓集団のみなさん「鼓童」も参加された劇伴は、最高の低音と共に物語のバックグラウンドを力強く彩ります。和太鼓奏者の方の掛け声も実にカッコイイ。
銃器周りの効果音も強烈です。
特に、スローモーションに乗せて奏でられるモスバーグM590の排莢音、1発1発再装填が必要なコンテンダーの音全般、全弾全力掃射されまくるベレッタ92FSの銃声あたりは印象深いものがあります。個人的にはベレッタの音は、ここ20〜30年くらいでリアルに寄せてきたガンファイアSEの中では、リアル寄りながらハッタリも効きいた逸品中の逸品だと勝手に思っております。

それから、オリジナル音声も良いのですが、吹替版の方も実にエキサイティング。
最近は、シャウトや呻き声はオリジナル音声そのままで吹き替えてくれない作品も多い中、こちらは細かいところまでしっかり吹き替えてくれています。
ジャン・クロードさんのハスキーなYEAH!と大塚明夫さんのシブいYEAH!、是非聴き比べてみましょう。

そして、何より主人公チャンス・ブードローの人間像がいい味わい。金はないわコーヒーの飲み方はなんかちんまりしているわ、何かと明日の生活も困っているスレスレな状態だけれど、強く程々に優しく決して卑屈にならぬ自信を持って生きる姿。自分も、例え人生に追い詰められても彼の様に正気男気でありたいものです。

舵取り役のひとりである製作総指揮サム・ライミさんあたりは絶対ブレーキ役をやってない気がしますし、結果ジョン・ウー監督はやりたい事を詰め込みすぎてヴァン・ダムさんや劇伴を活かしきれてない気もする、決してバランスが取れているとは言い難い作品。
しかし、製作・監督・役者・音楽・効果等、あらゆる部分に今はもう結集するのも難しい優れた才能陣が一堂に介し、それぞれの力をどんどん捻出した、素晴らしい勢いと魅力に溢れた一作です。
見終えた後は、色々と落ち込んでいた肩こりもなんだか楽になった気もします。今度また気後れしそうな時があったら観て喝を入れたいと思います。

それにしても、女優さんのバッチリ眉毛メイク、超気になる…もう眉毛にしか目がいかない…
サド和尚

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