喜連川風連

ゲド戦記の喜連川風連のレビュー・感想・評価

ゲド戦記(2006年製作の映画)
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人間の心に巣食う、光と闇の根源的な争いを描いた原作ゲド戦記。

アニメ版では序盤で父を殺してしまうため、物語の引っ張りが弱い。開始5分でルークがダースベイダーを殺すようなイメージ。

感情移入して物語を見る人にとっても主人公の悩みや欲求が見えにくいため、難しい。

街には、絶対悪のような存在が溢れ、カタルシスを意図的に避けている。

宮崎駿アニメでは、悪役が登場しても、絶対悪ではない。クシャナやジコボウ、クロトワのように現実主義者なだけで悪ではない。今回はそれらが絶対悪に堕しており、物語に奥行きが生まれない。

序盤に、父を殺すシーンを見せ、宮崎駿を殺すメタファーのように見せるが、アニメーターは宮崎駿さんの下で薫陶を受けた方々なので、どうしても影響を抜け出せない。

それでも宮崎駿アニメでは決してやらない演出や人物設定が相次ぐ。目つきは主人公のそれではなく、街には意地悪な人間が溢れる。

とことんまで、気分のスッとしない演出が続けられる。これはこれで演出としてありだが、貼られたラベルはジブリだ。キャラデザインもジブリだ。こことの噛み合わせが絶望的に悪かった。

その後、宮崎吾朗さんが3DCGに表現を求めたのはなんとなくうなずける。

2Dアニメでは、どうしても父(宮崎駿)を殺しきれないのだ。

90分かけて父殺しをやるなら大傑作になったかもしれないが、序盤であっさり殺してしまったのがもったいない。

その点、思い出のマーニーの父殺し・ジブリからの決別宣言は見事だった。

家庭をかえりみない父を殺すものの、自己肯定感が低い宮崎吾朗くんが女の子と出会い、国に帰る話。それに寄り添うハイタカは鈴木敏夫か。

街並みの見せ方にロードオブザリングを始めとした、ファタンタジー映画の影響多数。

生きることを肯定しながらも演出の数々に人間に対する根本的な不信感が伺える。

「この世は生きるに足る」そう思いたいのに、憎悪ばかりが目に入る。偉大な親を持つと苦しいですね。。
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