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あらくれのnt708のネタバレレビュー・内容・結末

あらくれ(1957年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

あれやこれやのエピソードの連発で、ともするととっちらかった印象になってしまう展開を上手くまとめあげているのは、さすがは水木洋子と成瀬巳喜男の名コンビである。出演者もとても豪華で、作中で描かれている大正時代の日本さながら、東宝撮影所の全盛期とも言える顔ぶれに胸を躍らさずにはいられない。

肝心の中身についても、成瀬映画特有の哀愁と、最後に少しばかり垣間見える希望が心地よい。男たちに翻弄されながらも、タイトル通りのあらくれぶりで力強く生きていく姿は、悲劇の主人公として扱われがちな女性像から真っ向から対立しており、男尊女卑の時代においても女性がひとりの人間として人生の主人公となり得たことを象徴しているかのようである。

しかし、これをフェミニズムといった主義・主張と結びつけるのは、きわめて短絡的だ。もちろんそのような解釈にも理解はできるのだが、性差の関係なしにひとりひとりがそれぞれの人生を精一杯に生きていること、その精一杯に生きているひとりひとりの人生がぶつかり合ったときにどのような作用が起こるのかということから、本作を観ると非常に興味深い。

物語にとってご都合主義的な登場人物だったり、人物設定を選択しがちな現代映画が見習わなければならないエッセンスがここにある。本来、物語というのは人ひとりの人生を描けばそれだけで成立しうる。その中で、人生というのが面白いのは、成立しうる物語を持った人同士が出会うことで、他人の人生の物語の一部になること、他人の人生の物語の筋書きを変えてしまうことがあるということだろう。ここに物語、特に複数人の人生を同時に描くことの出来るという意味で、映画の可能性があるのではないだろうか。

9月に入ってようやく長編映画の脚本に初挑戦し始めて、最近はそんなことをよく考えている。物語というのは物語それ自体ではなく、やはり物語に登場する人々の魅力によって支えられているのだと私は思うのである。
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