『あらくれ』
1957(昭和32年)
「だめですよ。男に振り回されちゃ。こっちが一人前の男にしてやるくらいでなくちゃ」
徳田秋声の原作を水木洋子が脚本して成瀬巳喜男が監督。
大正時代を舞台にした女性の一代記。農家の娘シマ(高峰秀子)は別の農家の養女になる。その農家で働く作男との結婚を強制されて家出。
缶詰屋の鶴(上原謙)の後妻に納まったが事あるごとに前妻と比較して細々難癖をつけるモラハラ男の鶴と口論になりシマは鶴につかみかかるが階段から転落して流産。鶴と離婚。
山奥の旅館にいる兄(宮口精二)を頼るが兄の借金のかたに旅館で働くことになる。旅館の若旦那(森雅之)と不倫関係になり父親から連れ戻される。
働きに出た縫製工場で出会った小野田(加藤大介)と仕立て屋を始める。
小野田の働きが悪く仕立て屋は倒産。シマは水道ホースで小野田に水を浴びせかける。
再出発してシマの営業力で洋服屋は繁盛する。小野田が浮気をしていたことを知り浮気相手の顔を火鉢に叩きつけ散々殴りつける。腕の立つ若い職人(仲代達矢)を引き抜いて新しく店を開こうとする。終わり。
シマは映画の中で一度も泣かない。クズ男達に散々な目に遭わせられてもシマは黙っていない。逃げる。悪態をつく。殴る。蹴る。水を浴びせる。愛想を尽かして出ていく。
メソメソしないまさに「あらくれ」。
大正時代といえば金子みすずとシマは同時代。みすずは早く両親に死別して親戚の養女となり結婚した相手がクズ男で離婚することになったが娘を引き渡さないと言われ絶望して服毒自殺した。
みすずがシマの様なあらくれ女だったらと思わないでもない。
女性がクズ男からひどい扱いを受ける事は大正時代も今も同じ。
シマの男の言いなりにならないパワーは気持ちが良いくらい痛快だ。しかし高峰秀子は蓮っ葉な言葉遣いだがただの乱暴なだけではない女性像を見事に演じてる。黙ってやられてばかりいられないからこんな生き方しかできないんだよと彼女の表情が語ってる。
そして嫌味ったらしい上原謙、優柔不断な森雅之、小心な怠け者の加藤大介、ふてぶてしい千石規子をたっぷり堪能できます。