むさじー

あらくれのむさじーのレビュー・感想・評価

あらくれ(1957年製作の映画)
4.0
<男運のない女の流転の人生>

大正の初期。結婚話を嫌って東京に逃げたお島は、缶詰屋の主人の後妻になるが、女出入りの激しい夫と気性の激しい彼女とは諍いが絶えずに離婚。その後も優柔不断な田舎旅館の若旦那と不倫関係になったり、浮気性の裁縫師と所帯を持ったり‥‥。働き者で気が強くて頭はいいが男運のない女、そんなお島が頼りない男たちに翻弄されながら、持ち前のパワーで困難を切り開いていく物語。
他の成瀬作品の高峰秀子には、溝口作品の田中絹代に似たものがあって、不実な男に振り回されながら離れられない、健気に耐える女のイメージがあった。だが本作のヒロインは全く耐えることなく、男勝りで暴力もいとわない奔放さでその反面、情にもろく惚れた男にはとことん尽くす女性。この複雑なキャラに高峰がピタリとはまっていて、三人のダメ男もうまい。
そして成瀬も、お島に特別な感情移入はせずに、彼女の生き方をあるがままに淡々と描いていく。大正初期の時代背景には、大正デモクラシーや女性解放運動など自由を求める空気があって、ポジティブでエネルギッシュな女性像がその中心なのだが、人々の暮らしや街並みにも活気と風情がある。そんな空気感が成瀬流の哀愁と相まって独特の詩情を生んでいるのがいい。
また面白いのは、当時の映倫が本作を18歳未満不可の成人映画に指定していること。青少年への悪影響が心配されるようなシーンはないのだが、何故? 男の言いなりにならない自立した女性の存在に男を脅かす危険なものを感じる、そんな風潮が戦後10年を経た高度経済成長期に入っても残っていたのなら何とも‥‥。
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