半兵衛

100万人の娘たちの半兵衛のレビュー・感想・評価

100万人の娘たち(1963年製作の映画)
3.9
何だろう、表向きは名所とスターばかり出てくる観光映画の様相を呈しているのにそこで働く女性たちの妬みや嫉み、仕事に対する意識などといった生々しい感情を拾いまくった結果舞台となる美しい宮崎の世界で自分達の仕事や恋愛に悩み身もだえる真摯な労働メロドラマに。あと主人公姉妹と二人が憧れる男性といういかにもメロな三角関係が、人間の負の感情を描きすぎて人間の業やその本質に迫る異様なドラマに昇華されてしまう事態に。

表向きは立派なバスガイドだが、裏では恋愛や自分の生活に悩む主人公姉妹を小畠絹子と岩下志麻がそれぞれ好演。二人ともそれぞれ聡明な美人なのに怖い顔をするのが得意なので人間の業が渦巻くメロドラマという内容が更に深みと凄みを増している。特に岩下志麻が姉が自分が密かに想いを寄せる吉田輝雄と結婚すると聞いた時の顔は後年『極道の妻たち』などで見せる凄みのある表情の片鱗をうかがわせる。

姉妹が好意を抱く吉田輝雄が岩下や小畠と対照的な持ち味の朴念仁ぶりを発揮してドラマのバランスをとっている。そんな鈍感な吉田が姉の小畠と結婚しているのに酔って思わず岩下を抱こうとする場面に人間の業の深さを垣間見てゾッとした。

小畠の同僚でありながらある挫折が原因で東京に行ってしまう女性を牧紀子が好演、後半船の甲板でジーンズとシャツでキビキビ働く姿が滅茶苦茶似合っている。あとケムール人や異次元列車と『ウルトラQ』でひどい目にあっている柳谷寛をカラーで初めて見たかも。それと自分の夢を持ちながら適当なところで妥協してしまった津川雅彦が映画にスパイス的な刺激を加える。

終盤、研修で東京の実情を見ても三角関係の地獄の果ての末に宮崎を出て東京で働く決意をする岩下が健気。でもあのラストはどう見てもバットエンドにしか思えない。
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