日本版VHS題「マルキ・ド・サド 愛欲と官能の果て」。主演は前年「2001年宇宙の旅」(1968) の主演ケア・デュリア。監督は「SF巨大生物の島」(1961)のサイ・エンドフィールドとロジャー・コーマン（ノンクレジット）。マルキ・ド・サドの生涯をアヴァンギャルドな演出で描く。

「悪徳の栄え」「美徳の不幸」と猥褻な禁書を執筆出版した罪で警察に追われるサド侯爵（ケア・デュリア）は、現在は廃墟と化した自身のラコスト城に逃げ込む。城内に建設した私用の劇場では少年時代のサドに加虐を教え込んだ伯父（ジョン・ヒューストン）がサドの半生を舞台劇として演出中だった。サドはその内容を否定し真実を回想し始める。彼の心には強く愛しながらも結ばれなかった女性アンヌの存在が常にあった。。。

「愛は生殖器の排泄行為に過ぎない」。ケン・ラッセル監督が翌年から連発する“狂気炸裂映画”の先駆けのような作品。60年代後半にブームとなったマルキ・ド・サド関連の決定版を目指してサド自身の人生を取り上げている。スタッフ・キャストの顔ぶれは一流で、城や劇場など美術もゴージャス。サイケな映像も組み込まれた意欲作だった。ただ、サドの人生を悲劇的に描いているためベースが真面目になってしまい、本来の魅力である背徳感やアナーキーさに欠けているのが惜しい。しかしサド関連の映画でこのような切り口は他に見あたらず、基本として抑えておくべき秀作とは言える。

※撮影途中でエンドフィールドが流感にかかり入院し、急遽コーマン監督が後任となった。しかし制作会社AIPがクレジットにも載せずギャラもロクに払わなかったためコーマンは独立に向かう

※現在出回っているソフトは上下をトリミングしてワイド画面にしたものが多いので注意が必要。また、VHSはトリミングされていないが画質が悪く本作の魅力は楽しめない。

※脚本は「激突！」（1971）や「地球最後の男」原作を手掛けたリチャード・マシスン。助演に「アフリカの女王」(1951)の監督ジョン・ヒューストン。