監督小津の証言ドキュメント「無」とは?
2011年8月27日 17時13分レビュー
1983年脚本、構成、監督井上和男。
日本映画の四大名匠、
アメリカから絶大な尊敬をあつめ、国民栄誉賞をいただいている黒澤明。
小津とは対極な作家の黒沢明。黒澤サムライ活劇と正反対をつらぬいた。
時にヒューマニズムに、時にファンタスティックに、時に説教っぽい黒澤明。
日本の古典映画化作品から独特の格式美を追求、女性を見つめた溝口健二。
悲壮なドラマからドロドロしたラブまで悲しい中に浮き立った家族とラブを切り取った一番好きな巨匠、成瀬巳喜男。
そして「ザ日本人」がいつまにか「ザ人間」に。いつまにか世界の「オズ」になり、人間を映し出した家族とラブと孤独を切った小津安二郎監督。
ローポジション、日本の家族、独特の画面構成、そこに滑り込む家族、恋愛、別れを表現した日本の素晴らしき監督
小津安二郎についての証言ドキュメンタリー、何気に気になり、松竹ビデオで再見。
本当に出演者だけで豪華必見!
そして小津入門に抜群なドキュメンタリー、監督井上さんのインタビューとともに懐かしい作品を振り返っていきます。
岸恵子、司葉子、淡路千景、笠智衆、東野英治郎、杉村春子。
映画監督こないだ引退宣言発表の新藤兼人、
新潟出身の映画評論家佐藤忠男と様々健在の姿とインタビュー。
小津には、初期大学物、きはち物という庶民物語からサイレント映画がはじまる。
東京の深川生まれ。教員をしていた小津さん。
それから幼い邦画に疑問を感じ、洋画に惹かれ、
エィゼンシュタイン「シィビリゼーション」を見て映画をこころざし、撮影助手からはいった小津。
初期の大学物、きはち物を見たくなりました。
初期は、カメラ移動からアメリカ映画のやら自由奔放な作風だった小津。
きはち物の親子の愛を中心に据えた映画から独特の日本人の心を描きはじめていったようです。
私が見たのちリメイクする「浮草物語」もサイレント映画ですが、旅回りの座長のラブ模様、親子模様がほどよく伝わる物語でした。
この頃から小津の片腕俳優として出演し続ける笠智衆さん。「父ありき」で出ずっぱりの出演に大層喜んだそうです。
そしてそんな笠さんに「能の面」でいてくれという指示を出します。余計な芝居は、させないんですね。
これは小津組の特徴で自由そうに見えて、
ガチガチなアングル要求
確固たるアクション
確固たるリアクション、抑揚
出来るまで繰り返す
という証言を皆々様おっしゃります。
それほどキツい、窮屈な現場なんですね。それでも小津「先生」と言われ皆様の思い出を各々語ってくれます。
岩下志麻さんは、「60回やった」と言い
世界の今村昌平監督は、「麦秋」で助監督につき、原節子の食事シーンを見てそこに小津の「性」なる演出をみたと言い、
杉村春子さんは、
小津さんが「支えだった」と言い
須加不二夫さんは繰り返されるリハーサルに、
「役者は、同じ芝居を二度繰り返さないと駄目だ」
とキツい事を言われ、
岸さんは、あまりのリハーサル回数に「なんで?」と聞くととても優しそうに
「あなたが下手だからだよ」
と言われたと言い
映画評論家の佐藤さんは、「雌鶏」ではじめて小津を意識し、本作に人間が人間をなじる事の意味を見いだしたと言い
様々な思いが溢れた素晴らしい証言ばかりです。
小津のお墓の「無」の文字そして後期作品テーマにある
親の「孤独」
男の「孤独」
ひとりぼっちな姿
そこに小津自身を一番投影させたかったんじゃないのかな?と映画を見て感じました。
そしてそれは、世界をわたり、
ヴィムベンダーズからスコセッシからドナルドキーンから台湾のホウシャオシェンまで世界の監督や人に伝わっているんだと思います。
着物、文化、国籍違えど小津の表現した「挨拶」や「コミニケーション」「空間」「景色」「家族」「ラブ」は、これからも生きる伝わり続けていくと思い直しました。
映画監督小津安二郎フィルムは、これからも生きるけども
決して滅びない日本人を切り取った日本映画の巨匠監督だと思いました。
素晴らしいドキュメンタリーでした。
日本映画の素晴らしき四大巨匠、監督小津の証言ドキュメント「無」とは?
私は、フィルムに映る、小津が魅せてくれた日本人の心ばえのような気がします。