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キル・ビル Vol.2のRUNPENのレビュー・感想・評価

キル・ビル Vol.2(2004年製作の映画)
4.9
キル・ビルvol.2
vol.1に引き続き超長文妄想怪文書を記す

まずそもそもこの映画が何なのかという事を考えたい
キル・ビルとは毒ヘビ暗殺団という特殊な組織の特殊な人間関係の特殊な世界を覗き見る物語だということだ
ゆえにvol.1のようなお祭りアクションや数々のエキセントリックな演出(そこには意味があるが)をvol.2に期待するのはそもそもヤボなのである 

vol.1はザ・ブライド(ブラック・マンバ)とオーレンイシイ(コットンマウス)ヴァニータ・グリーン(コッパーヘッド)の関係
vol.2は残りのメンバー バド(サイドワインダー)エル・ドライバー(カルフォルニアマウンテンキングスネーク)そしてボスであるビル(スネークチャーマー)との"殺し屋同士"の関係を描いた映画である
(余談 メンバーのコードネームは全て蛇の名前でありビルのスネークチャーマーとは蛇使いの意だ)

ではvol.2のアクションはどうなのか?ダメなのか?というと全くそんな事はなくvol.1と違うベクトルで突き抜けてる素晴らしいアクション映画だ
今回は基本的に一対一のタイマンだ

アル中で用心棒の仕事もいいかげんなバドだがブライドの襲撃に岩塩の弾丸で返り討ちを喰らわせ(岩塩?)メキシコ流生き埋めの刑で土の中に埋める が懐中電灯を渡す(なぜ?) この事からバドは復讐しに来る事を求めていたのでは?と思える
なぜ求めるのか?教会襲撃の後殺し屋を辞めたバドはビルの命令とはいえ仲間を殺したこと(生きてるけど)に虚しさや後悔を覚えたのではないか? そして酒に溺れ現実を見失った だがブライドが生きていた事が彼を現実に引き戻した 「あの女の復讐は当然だ」
しかしただ殺されるのは殺し屋としての道理に反する 全力で対抗するのが特殊な世界の理だ(これ重要) それでもなぜか彼女にチャンスを与える(殺さない)のはその唯一の現実を失いたくないからだ
来たらまた返り討ちにしてやるよ しかし殺られたらそれはそれでよし という私達には理解できない世界
バドがブライドに最後に言う「兄貴を捨てた報いだ」とは今の自分の生き方に対する自身への言葉である
そんな彼がブラック・マンバではないブラック・マンバに殺されるというのはなんとも皮肉であった

最高に卑怯な女 エル・ドライバー

目的のためなら手段を選ばず自分のためだけにしか動かない女 暗殺団時代からブライドとは超険悪ってのが一目瞭然なのが面白い しかしそもそもエルと仲が良いメンバーがいるとも思えないが
バドを騙し討ちし余裕こいて帰ろうとしたところをブライドの飛び蹴り一蹴!!からのトレーラーハウス内の闘い!
オーレン戦の時と違いここでは両者全く会話をしない なぜならお互い「このムカつく女!大っ嫌い!殺ったる!」という気持ちだけで闘ってるから言葉はいらないのです
せまい室内でエルが刀を抜けなくて肉弾戦になるのが良い!!が何度も刀が抜けない=道具を使いこなせていない そこが殺し屋としてエル・ドライバーの甘いところだ
基本的に毒殺や不意打ちが彼女の殺り方なのだろう これは仲間からも良く思われてない気がする ブライド亡き後(死んでないけど)ビルの女気取りだったがビルも本気では相手にしてなかったはずだ(利用はする)
その新しい女ポジションはソフィだったと思うが両腕を切断され情報を漏らしてしまったソフィはビルに殺された(はず) だからvol.2に出てこない
この女性達に対する姿勢がビルの冷徹さを物語っている

激しい肉弾戦の後バドが隠し持っていたハンゾウソードを見つけるブライド!(「刀は売った」というウソもバドの性格をよく表してる 演じるマイケルマドセンがカッコいいから ついカッコいいヤツ!って勘違いしちゃうがなんか全体的にセコい男だ)
エルの片目の理由や師匠の死の真相も明かされる!燃える!!ここの2人の会話がイイ〜感じで2人の性格を表してて超盛り上がる

エル戦の前にブライドの修行シーン(vol.2唯一エキセントリックなシーン)があるのだがこの師匠パイ・メイが聖人君子ではないところも非常に良い
偏屈な人間で白人嫌いで女を蔑む人物…
まぁ殺しの技術を教える人ですから…
(高名な人が皆良い人かって言えば全然そんな事はないので)
しかしそんな人物とも師弟関係を結べるブライドはやっぱイイヤツなのです!悪態つくエルはやっぱり性格悪いのです!
イイわ〜みんなキャラたってるわ〜

最強の刀同士で鍔迫り合いする中ブライドの必殺技が炸裂!!悲鳴を上げのたうち回るエルの姿に彼女の全てを見た 殺されもしないという最後
エル・ドライバー(カルフォルニアマウンテンキングスネーク)徹底して卑怯な女 最高の悪役だ

そして時間軸は映画の冒頭
宿敵ビルのもとへ向かうブライド そして過去の回想にてついに現れるビル!!やっと顔が見える!
「やあ キドー」
ここからの2人の会話と表情は超重要です
このシーン緊迫感がスゴい キドー(ザ・ブライドa.k.aブラック・マンバ)はビルの冷徹さや非情さを知っている だが「私にだけはそうじゃないはず」という気持ちを持っている
対するビルは優しく語るがどうとでも取れる事しか言わない 真意がわからない 怖え キドーの恐る恐るの笑顔とビルの真意がわからない笑顔… 怖え
(余談 ここでalsoが「あぁそう」に聞こえるキルビルマジックあり 後半にもあり でも英語?日本語?どっち?)

ビルはとにかく口が上手い 人心掌握術とでもいおうかキドーだけでなく我々もビルの語りに注目してしまうのだ

彼氏トミーがアーリーン(キドー)を心配してこちらに来た時のビルの変わり身の速さに「パパよ」と言われた時の失笑した顔…
トミー「ようこそビル 来れないとばかり」
ビル「驚いたろ?」
キドー「パパったら人を驚かすのが好きで」
ビル「だがその点にかけては…娘も私に引けをとらん」 これはキドーの妊娠の事か?
このところどころ本音を挟み込むのがヤバい キドーがあわててウソをつくたびハハッと笑いつじつまを合わすビル

式の打ち合わせなんて聞いたことがないというビルにトミーはアーリーン(キドー)をどれだけ愛しているかを語る(トミーは本当にいいヤツだ)
ビル「不吉では?」ここでもサラッと本音「不吉だぞ」を言うビル ヤバい
トミー「スリルが好きで」(トミーいいぃ(泣))
ビルが「わかるよ」と言った時のキドーの顔がなんとも言えない…
あわてるアーリーン(キドー)に対し不思議がるトミー ここでキドーはビルからトミーの横に移動する ビルとキドーの緊迫感がより増すのである ヤバい

もう一度ビルに駆け寄り見逃して欲しい事を伝えようとするキドーだがビルはそれを優しい言葉でさえぎる
キドー「きれい?」
ビル「ああ」
キドー「ありがとう」
そしてカメラが引き現れる毒ヘビ暗殺団!
神父「何だ 君たちは?」

はあー!もうここまでの緊迫感で超疲れる これは名シーンだ ここで大事なのはビルの言うことは全て本心の見えないウソだということだ 

ラストチャプター
フェイス トゥ フェイス

ビルの隠れ家へのり込みキドーが目にしたのは子供?!誰の?!娘?!ママ?!
(しかしとにかくキドーは真っ正面から相手のところへのり込みに行くな…)
復活後初の対面となるビルどころか謎の少女に動揺するキドー
ここからビルの独壇場になる ビルのお話の通りに少女B.Bは言う「バンバン」 ビル「弾が当たったよ 倒れて ママ」 (vol.1のOP曲のタイトルは「バンバン」である「お前はなぜ生きてるんだ」と受け取れる)
動揺しながらもB.Bにつきあい倒れるキドー キドーに近づくB.Bを見てビルはニヤリとする(笑顔?いや違う気がする)
本当にB.Bはキドーの娘なのか?ビルが殺し屋に育てようとしてる他人の子供ではないのか?ビルの罠では?ビルの言葉は信用できない と思うんだが 
だがB.B自身は純粋にキドーをママだと思ってる そして純粋に金魚を踏み殺す
…と ここで恥ずかしながら初めて気がついたんだがキドーの復讐とは自分のためではなく殺された子供のための復讐だったのだな だから怒りで真っ正面から相手に挑むのか

子供が生きていたのかもという事に心は動くがビルを殺ることにかわりはない しかしビルの実力と巧妙な語りに手が出ないキドー (余談 メンバーはビルとオーレン以外銃火器の扱いは得意でなさそう(オーレンはビルの秘蔵っ子でもある)コッパーヘッドはナイフの達人だけどシリアルに隠した銃で外してたし 銃で撃ち合う闘いはほぼない 毒ヘビ暗殺団は肉体派の組織なのだな)

ビルは本音が全く見えない 演じるデビットキャラダインの演技力もあるのだが
コミックヒーローを例えに「仮の姿」「殺し屋が幸せになれるか?」ともすれば「お前の為を思ってやった」的な語りをする(殺した連中はよく思わんだろう?というセリフはこちらも納得させられそうになる)
ではなぜコッパーヘッドは娘と幸せに暮らしていた?
やはり教会襲撃はビル個人のキドーへの執着心からの行動なのだ
ビルはキドーに「なぜ私の子を連れて逃げた?」などとも聞くが襲撃前までキドーの妊娠を知らなかったはずだ 殺し屋は幸せにはなれない 俺の子供を連れて逃げたからだ とさも正当な事を言ってるようだが全て詭弁に聞こえる 
暗殺団を率い人心掌握も極めるビルの唯一の失敗はキドーに執着した事だ 
そして
ビルとキドーの決戦は一瞬にして決着!!燃える!! 秘奥義を使い「やってしまった」と息を呑むキドー ビルは苦痛をこらえ血を流しながらもいつもの調子で話す
ここでビルは初めて本当の自分を見せた気がする(しかしデビットキャラダインの演技はどれもこれも超カッコいいですな)

口元の血を拭い「どうだ?」 「もう死ねるわ」お互いが覚悟を決める スックと立ち上がり見栄を切るビル そして彼女に死ぬ姿を見せずに死んだ

なんですかこれは!カッコ良すぎる!!
思えばオーレンもキドーに自分の死ぬ姿を見せなかった(背中しか見せていない)この事実からキドーと関係の深い人物が誰なのかがわかる

最後にキドーは子供が生きていたことの喜びにむせび泣き感謝する B.Bが本当の娘かという疑念ははれないのだが(多分本当の娘なんでしょうけどビルの狡猾さを思うとウソなのかもなぁとか)
しかし本当の娘かどうかなんてどうでもいい ビルが生きている限りB.Bは殺し屋の世界に引きずり込まれていた やはりビルを殺す事にかわりはないのだ

ベアトリクス・キドー またの名を ママ

キル・ビルとは とある殺し屋集団の人間関係を描いた物語である

超面白い




追記
vol.1の飛行機に刀持ち込みとタラは東宝のゴジラで使われるスタジオで撮りたかったらしいが日活で撮ったという飛行機の特撮がちょっとやり過ぎかな〜という-0.3点(まぁ東京に向かうシーン自体は超面白いんですが 車運転するゴーゴーイカす)
vol.2もやはり刀の話 ビルの隠れ家にのり込むキドーの刀の背負い方が左向きな事となんかダルダルなのが気になるな〜つって-0.1点
というオタクのウザい採点
RUNPEN

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