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DISTANCE/ディスタンスのkyのレビュー・感想・評価

DISTANCE/ディスタンス(2001年製作の映画)
3.0
是枝監督の作品は確かなメッセージやストーリーがあるのだけれど、どこか掴み所がなく掴めない作品が多い。
今作は特にそんな感覚になる。
今作の特徴である陰湿で暗い世界観の意図するものというのは、感じ取ることができた。
それが今作、そして事件から想起するメッセージなのかもしれない。


あらすじ
カルト教団「真理の箱舟」の信者が東京都の水道水に新種のウィルスを混入させ、128名の死者を出すという無差別殺人事件が起きた。
その後、5人の実行犯は教団の手で殺害され、教祖も自殺した。
それから3年目の夏。「加害者遺族」の4人は遺灰の眠る湖に集まった。
同じ痛みをかかえている仲間にも秘密を打ち明けることができない、敦。
医大に通っていた兄が事件を起こした、勝。
高校時代の後輩によって妻を教団へと導かれた、実。
夫が「真の教育を追及する」といって帰らぬ人になった、きよか。
4人は、居合わせた元信者の男・坂田とともに、実行犯たちが最後の時間を過ごしたロッジで一夜を過ごすことになる。
信者たちの生活の痕跡が残る空間で、彼らは今まで目を背けていた”記憶”と向きあう。


感想
掴み所がなく掴めない作品
現代日本を代表する監督として名高い是枝監督。
「万引き家族」は周知の通り日本アカデミー賞を総なめにしているし、「誰も知らない」では世界的な評価を受けている。
けれど、僕はどの作品もどこか”掴み所がない”と感じている。
それはメッセージ性が薄いとか、ストーリーが弱いとか、そういうことではない。
というよりメッセージは感じるし、ストーリーは明確。
なのだけれど、それが抽象的というか、伝えようとしているメッセージはもっと大きく映画という枠をはるかに飛び越えているように思うのだ。
結果、現在僕の経験や知識では到底網羅することが困難なメッセージを孕んでいるといったほうが正しいのかもしれない。
そんな彼の作品でも、今作は特にそんな印象を受けた。
ベースのオウム真理教があるというのはあらすじを見ても大体想像が付くのだけれど、僕にはオウム真理教の記憶というものは何もない。
というのも、事件当時、僕はまだ産まれてもいないから。
言葉で残忍だとか悲しいだとか、そんな事件であったというのは簡単に口にできるけれど、どこか他人事に感じてしまうのかもしれない。
だから”掴み所がない”と余計に感じてしまう。

陰湿で暗い世界観の意図するもの
今作は全体を通して暗い世界で構築されている。
もともとベースにあるのが、そういうバックグラウンドを抱えた人々なのでそれはそうなのだけれど、少々異様である。
なぜなら、単に暗いというより、意図的にそれも”見せないように”暗くしているように見えてくるから。
すると、それが意図するのは”伝えたいけれど隠しておきたい過去”ではないのかと。
そんな、制作側や世間の葛藤のようなものが映画に垣間見れる。
それを絶妙な暗さで映し出し表現しているのだから巧い。
日本が当時抱えた、これに関する問題は諸外国にも本来は隠しておきたい事なのかもしれないし、後世にも伝えることが億劫な事件なのかも知れない。
一方で見ている側とすれば見づらいというのが正直な感想でもあったりはする。
声もボソボソとしていて聞き取りにくい。
それも含めて演出なのかもしれない。
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