よどるふ

ある街角の物語のよどるふのレビュー・感想・評価

ある街角の物語(1962年製作の映画)
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手塚治虫によって設立された「虫プロダクション」制作による初期の短編作品。冒頭の登場キャラクター紹介から、物語本編が一筋縄ではいかないことが直ちに了解できる。なにせ鑑賞者に紹介されるのは、少女、ネズミ、樹木、街灯、蛾、そしてポスターたちだ。しかもそれぞれにユニークな形容詞もつく。最初こそキャラクターたちが織りなす愉快な群像劇(?)を予感させるつくりだが、次第にきな臭い気配が濃厚になっていく。このギャップが味わい深い。

いちばん好きなシーンは、やはりたくさんのポスターたちが音楽に合わせてめいめいに動くところ(あの下半身が食べられている人魚のインパクト!)。だからこそ、後半においてそれまでの雰囲気が文字通り塗り替えられ……いや、“張り替えられる”展開にヒリヒリとさせられるのだ。ポスターにスポットが当たるシーンはそれこそ平面的な面白さが優先されているものの、カメラアングルや背景の動かし方によって立体的なアニメーションを工夫して作ろうとする気概は随所から感じられる。日本アニメーション黎明期の作品。ここまでの意欲作だったとは。これほどの作品が手軽に観られる事実を含めて寿ぎたい。
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