津軽系こけし

ナイト・オン・ザ・プラネットの津軽系こけしのレビュー・感想・評価

4.6
孤独な夜に、また会おう。


【たかが、タクシーではないか】

たかがタクシーの中におけるドライバーと客との会話劇でしかない話に、「ナイトオンザプラネット(地球の夜)」というおおよそスケール縮尺を間違えたようなタイトルがついている。
しかし本作のその、小さな話が各地で起こっているというオムニバス性が、現実世界における「知らない人にも物語がある」という妙味を湛えているのだ。

道ですれ違っただけの赤の他人でも、その人の人生にはそれぞれ物語がある。だが日常生活において我々は他人の物語と交わる機会は滅多にない。だからタクシーという環境は、無作為に出会った人同士が強制的に同じ空間・時間を共有するいわば物語同士の一時的なお見合い装置なのである。

親交を深めるわけでも、連絡先を交換するわけでもない、交通手段という前提の上に成り立つたったひとときの暇つぶしの契り。今作の会話劇は日常生活のとるに足らない交流の妙味でしかないが、なんだか無性に居心地が良いのだ。

散歩の時分に、たまたま通りかかったお婆さんに挨拶をしたら笑顔で挨拶し返してくれた時のような、不思議と暖かい感覚がこの映画では続いてゆく。今作の魅力はまさに、「無作為」と「人の多面性」によって織りなされる”意外”との対話なのである。


【4つ目のエピソードは好きじゃない】

オムニバス形式の映画だから、エピソードがそれぞれと関連なく織りなされるわけだが、当然好き嫌いは出てくる。1と2と3は好きで5はまあまあ、4はハッキリと好きではない。4は下手したら「ライフイズビューティフル」になっていたかもしれん。

【まとめ】

タクシーのスケールで、世界を語る。でも人間ってそういう小さくて愛くるしいものなんだと思います。そしてまた、夜が明けるのだろう。一朝一夕の妙竹林な逢瀬を、読者諸賢楽しみたまえ。我は枕に沈む。
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