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ガープの世界のBalthazarのネタバレレビュー・内容・結末

ガープの世界(1982年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

凄い映画だなあ(色んな意味で)と思いましたね。

ジェニーの両親は、父親のいない孫を連れて来た娘に戸惑いを隠せない。子供の名はT・S・ ガープ。父親がガープという名の戦死した特技兵だったからだ。両親の激怒も何食わぬ顔、赤ん坊を抱いて颯爽と家を出て行く。なんと、従軍看護士だったジェニーは、男は要らないが精子は欲しいと瀕死の床にあるガープに騎乗位になって搾り取った(結果的に止めを刺した)というんだから、サキュバスみたいな恐ろしい女だ。
耳の遠い父親には衝撃の告白は聞こえなかったが、しっかり聞き取ってしまった母親は卒倒してショック死。

時は過ぎ、来年には小学校に上がる年頃となったガープ(ジェームズ・マコール)は、見たことのない父親を恋しがった。パイロットだったパパ(本当は爆撃機のガンナー)は背が高かったんだろうか、死んだと思われているけど本当はローン・レンジャーみたいに生きているんじゃないだろうか?就寝前、居間でくつろぎながらいつものようにガープからパパについてあれこれ質問され、生粋のフェミニストなジェニーはガープに父親なんて不要だと言うが、ガープには納得がいかない。空想家のガープは紙に描いたパパと自分の絵を見て、一緒に空を飛んで悪者と戦うのを想像するのだった。

近所の女の子クッシィ(ジュリアン・ロス)と遊ぶガープ。クッシィはませた女の子で、子供の作り方を知っているかと言う。クッシィいわく、「ひどい頭痛だわ。…」と疲れたように振る舞う女性を、男性が押し倒して服を脱がすと子供が産まれる模様。どこで手に入れたその知識。
庭の人目につかない場所で、そういう無邪気な?遊びをしている二人の児童。そんな二人を茂みから見ているのは、クッシィの妹で思考の読めないミステリアスな女、たぶん発達障害を持つプー(ローリー・ロビン)。プーは飼い犬のボンカーズをガープにけしかけた。犬に噛まれてガープが怪我をする。ところがクッシィとプーの父親は噛まれたのは味がよかったからとつまらないジョークを飛ばすばかり。きっと私生児のガープを見下しているのだろう。嫌な家族だ。

家の暖炉の前で、クッシィの家族はクリスマスの家族写真を撮る準備をしている。姉のクッシィはカメラを意識して微笑むのに妹のプーは仏頂面で一切笑わない。そんなプーに「笑わないと結婚できないわよ。」と言う母親。プーは明らかに浮いた存在だ。一見幸せそうに見えて歪んだ家庭。
カメラにタイマーをかけ、父親が写真に写るために家族の真ん中に入ったとき、玄関のブザーがなった。頭に包帯を巻いたガープを連れたジェニーだ。怒り心頭のジェニーは、ボンカーズを紐でつないでおかないと注射を打って殺すと警告。ガープはこの件でクッシィと遊ばせてもらえなくなった模様。

一年生になったら、ガープをバスケットボール部へ入部させようと思っているジェニー。ガープの意志はなんとやら、母と一緒にバスケットボール部を見学。体育館のベンチに座ってバスケットボールを眺めていると、白いヘッドギアを持った少年がやって来た。パイロットのヘルメットを思わせるヘッドギアに興味を惹かれたガープは、その少年に付いて体育館を出て行った。彼が所属しているクラブはレスリング部。急にいなくなったガープを探して、男子更衣室の中に入ってきたジェニー。一瞬焦る男の子達とは反対に、看護師のジェニーは男の子達の裸なんて平気だ。このレスリング部に入りたいとガープに、ジェニーは「アニマル!」の一言。

白いヘッドギアを被ったガープは寮の校舎の屋根に座り、戦闘機に乗って敵と戦っている空想に浸っていた。で、被撃墜。ガープは屋根の端に掴まってママに助けを求めた。ガープの大声で集まってきた人の中には校長先生もいる。慌てふためきながらも校長先生はマットレスを持ってくるようにみんなに指示。ジェニーはベランダからガープの足をつかんだ。ガープが自分の体重に耐えられなくなって落ちる。母は強し、ジェニーは息子の片足をつかんだ手を離さなかった。

父親への情景がつよいガープにそろそろ出生の真実を教えなければならない。ジェニーは診療室に運ばれてきた校長先生にガープが生まれた経緯を語り、隣のベッドに居るガープの耳にも入れる。ジェニーの例の衝撃告白に気分を悪くした校長先生。

ジェニーの父親が亡くなった。実家の玄関のテラスに立ち、喪服を着たジェニーとガープは海を眺めた。ママのお父さんも死んだねと悲しそうなガープに、ジェニーは人は皆死ぬ、死ぬ前にしっかり生きるのよ、と教える。

大学生となったガープ(ロビン・ウィリアムズ)は、レスリングを続けている。キャンパス内を走っていたガープは、運動場の観覧席で読書している眼鏡っ娘(メアリー・ベス・ハート)に惹かれた。本を読んでいる真横でしつこく運動を続けるガープに、眼鏡っ娘は微笑んだ。T・S・ガープのT・Sは、“ terrible sexy (とてもセクシー)、terrible shy (とてもシャイ)”という意味だとジョークを飛ばすガープ。その女の子はレスリング部のコーチの娘でヘレン。

レスリングの試合。観覧席には白衣姿のジェニー、そしてヘレンもいた。ヘレンを意識しながらだ違うガープ。目敏いジェニーは息子の視線の先にあるものをチェック。ガープは最初劣勢だったが、ヘレンの応援のお陰か、勝利する。試合後、コーチの許に駆け寄ったジェニーは、自分の息子が欲望に悶え、娘さんを求めていると余計な忠告。娘はしっかり者だし、恋は自然なことだと答えるコーチに、恐ろしい病気も自然現象だと返すジェニー。

ガープは女子大の休暇で戻ってきているクッシィと再会。クッシィは、男好きのプレイガールになっていた。ボーイフレンドを連れているくせにクッシィは「頭痛がするの。」とガープに言って悪戯に微笑む。ビッチめ。

ヘレンには結婚願望はない様だが、結婚するなら作家がいいと思っている。ガープは自分も本が好きで文学に造詣が深いところをアピールし、将来作家になるつもりであることを話した。そしていつもグレーの運動着を着ているヘレンにドレス姿を見てみたいと言って、女心をくすぐった。

深夜、タイプライターの音で目覚めたジェニー。ガープは小説を書いているのだ。暫くしてジェニーは息子が何を書いているのか気になったようで、懐中電灯を持って隣の部屋に侵入する。ガープはもう寝ていて、部屋の中はもう暗い。ジェニーは懐中電灯を当てて執筆途中の作品を読んだ。それは母についての伝記だった。ジェニーは勝手に自分について書かないでと怒った。もっとも、その内、自分自身が自伝を書く気になるかもしれないとも。

キャンパス内の人目に付かない木陰で、ガープはクッシィと「頭痛がするの。」の続きをしている。爆発しろ。そんな二人を茂みから眺めているという構図も昔と同じ。プーだ。髪を二つにくくり、眼鏡をかけたプーは、子供のときの姿そのままに醜く成長している。底意地の悪いプーはヘレンを側に呼んだ。もちろん、ヘレンは気分を害して立ち去る。

ようやく短編を仕上げたガープは、それをヘレンに読ませようと声をかけた……のだが、ヘレンはガープを避けて遠のいていく。ヘレンを追いかけたガープは車にぶつかって持っていた用紙が宙に舞い上がった。君のために書いたと言ってガープは集めた紙を差し出したが、クッシィとのことを怒っているヘレンはさっさと放り投げて立ち去った。時間が無いとヘレンの背後から叫ぶガープ。いわく、ガープの家系は若死にするので、その前にニューヨークへ行って作家になるんだと。再び散らかった紙を拾い集めるガープは、唸り声を上げるボンカーズの足元に一枚あるのに気付いた。ここにガープはリベンジを果たす。ガープに耳たぶを噛み切られたボンカーズは、キャンキャン尻尾巻いて逃げ帰った。

ガープは母にニューヨークへ行くことを切り出すと、ジェニーも一緒に行くと言う。クッシィの父親がボンカーズのことで怒鳴り込んで来たが、ジェニーは窓を開け、下にいる飼い主に「ガープが噛んだの」と勝ち誇った。

舞台はニューヨークへ。ガープとジェニーは母子で買い物。とことん変わりものの母親のジェニーは、街の売春婦(スウージー・カーツ)に“欲望”について話を聞きたいと声を掛ける。 いきなり不思議なおばさんから20ドルで話をしたいと言われて売春婦は一瞬戸惑うがコーヒーおごって貰えることに。ダイナーのテーブル席で、ジェニーは売春婦とガープに質問をする。お客と寝て肉欲的な喜びを感じるのか、我が息子はこの女性のどこに惹かれるのかなどなど質問攻め。二人とも大した返事はしていないが、ジェニーは自分の質問が終わると、後はガープに任せると席を立つ。ジェニーが売春婦に約束のお金をその場で支払おうとすると、売春婦は慌てた。売春は違法なので、公衆の面前でのお支払いは危険なのだ。ジェニーは自分の体を好きに使うのがなぜ違法なのかと訳のわからない怒り方をして帰って行った。後に残されたガープと売春婦は、ちらちらとお互いを見合って微笑んだ。

ガープが帰ってくると、ジェニーの部屋からはタイプの音。ジェニーは『性の容疑者 The Sexual Suspect 』なる本を書くようだ。
自分の部屋に入ったガープは、向かいのアパートの一室から聞こえるサックスのメロディに誘われ、自分の過去を振り返る。そして先日歩道で見たシカゴ出身と思われる男女のことを思いだした。アパートへ口論しながら入って行った男女。タクシーが去った後、歩道に黒い手袋が落ちていた。ガープは拾ってきたその手袋を横に、タイプに向かう。

〜マットレスをと叫ぶ校長先生。消防車が集まっている。急いで到着したタクシーからは、昨日見た女性が出てきた。彼女はアパートを見上げて「スティーヴ!」と叫んだ。燕尾服を着た男がアパートのベランダの欄干に立っている。彼の前には釣り下げられているピアノ。男はやって来た女性に「シカゴを覚えているか?」と言い、また、もう用はないと黒い手袋を下へ放り投げた。男は釣り下がっているピアノに座って、弾き語る。女性が「降りてきて!」と叫ぶと、彼はピアノから飛び降りて、下の災害用のマットレスの上に落ちた。すると、ピアノを釣り下げていた紐が緩んだのだろうか、ピアノが男の真上に落下。女性は手で顔を覆った……〜

という、ガープは完成した上記の内容の小説をジェニーに読んで貰った。内容がさっぱり分からんと言う母に、ガープは熱っぽく解説する。--触ったものが幸せになる魔法の手袋を持っている男がいたが、その男自身は悲しみも喜びも感情を一切感じることができなかった。手袋を投げ捨て、身投げした男は、落ちていく瞬間に初めて生を感じる。--そう聞いたジェニーは、良い話ね!とガープにコメントした。一方、ジェニーは大作を仕上げていた。

既成概念を打破した生き方を選択したジェニーが書いたのは、自分について。仕事をして自立したいと考え、子供が欲しいけど結婚したくないと考えた自分が、世間から見て女として疑わしい女だから、ずばり性の容疑者、だって。

ガープは大学に戻り、ヘレンに自分の短編小説を読んで貰った。チェックのワンピースを着たヘレンは、ガープの作品について、とても悲しいと号泣。その反応を見て、ガープは大喜び。この作品は雑誌掲載が決定し、長編を書いたらジェニーの作品を扱った出版社が出版してくれる。作家になったガープは、作家の妻になりたいヘレンにプロポーズ成功。

『性の容疑者』が書店にズラリと並ぶ。ジェニーはいまや時の人となった。ガープは、母に先を越されて悔しいし、作家としてではなくジェニー・フィールズの私生児として有名になったことに大層不満だった。出版社側、出版とはタイミングであり、物議を醸す本は売れるものと。事実、ジェニーの本は世間に注目されている。ジェニーの本は小説というより政治的声明文であり、これで名声と富を得たジェニーはフェミニスト達のリーダーになるだろう。

ジェニーの本のキャンペーンが大々的に行われている。フェミニストの大会みたいな様相を見せる。ファンと握手をし、本にサインをするジェニー。その中の女性にあの売春婦の姿もあった。そこへ轟く銃声。保守派による攻撃だ。テロリストの男はその場で射殺され、ジェニーは無事だった。

結婚したガープとヘレンは、一緒にマイ・ホームを探している。一家の大蔵大臣はリッチになったジェニーだ。閑静な住宅街の白い綺麗な家が気に入った二人。私が教鞭を執る大学に近いとヘレンが言い、僕が行くスーパーに近いとガープが言うと、不動産屋のオバサンは自分の家と同じように旦那が働いていないとブツブツ。ヘレンが夫はT・S・ガープという作家だと話すと、不動産屋のオバサンはジェニー・フィールズの息子だと気付く。ジェニーの本を読んだと喜んで話すオバサンに、複雑な心境で微笑むガープ。すると、なんということでしょう。エンジントラブルを起こしたセスナ機が飛んできて、商談中の白い家に突っ込んだではありませんか。運良く怪我人はなし。ガープは飛行機が同じ場所に落ちる確率はゼロに近いからむしろ安全だと、喜んでその家を買うことにした。

新居のベッドルーム。ジェニーの本は多言語に翻訳されて国際的に売れているのに、自分の本はさっぱり売れないとイライラを募らせるガープ。批評家には評価されていて、自分が教える学生の中にもガープのファンが居るとヘレンは励ます。しかし、ガープの気は晴れない。そこでヘレンはガープに妊娠したことを明かす。ガープは涙を流して喜ぶ。普通は母親が泣くものだとヘレンが言うと、家で掃除や洗濯をするのは僕だから僕が泣くとマイホームパパなガープ。

長男ダンカンが生まれた。庭でガープは嬉しそうに赤ちゃんに話しかける。“ Dada. ”と言わせようとするがダンカンは言わない。

ガープは家族と共にジェニーの家を訪れた。ジェニーの海辺の邸宅には、彼女を慕う女性が大勢集って共同生活している。アマゾネスの集落のようだ。

ガープはテラスの柱にペンキを塗っている女性に声をかけた。その女性は首にかけたメモ帳に“ Hi. ”と書いて愛想なくガープに渡した。バレーボールを追いかけて足を挫いた女性にガープが駆け寄ると、その女性は異常にガープを恐れて叫び声を上げる。バーバラという口の利けない女性が怒ってガープに掴みかかろうとする。
エキセントリックな女どもに怒り心頭なガープに、ジェニーはエレン・ジェームズ事件の抗議運動について話す。エレン・ジェームズは 11 歳で二人の男にレイプされ、口止めのために舌を切られた。ここにいる口の利けない女性達は、この事件に抗議して、自らの舌を切った過激派のフェミニストたちなのだ。

いくらなんでも自分の体を傷つけるなんてやりすぎと彼女たちを批判するガープに、ロバータという大柄の女性(ジョン・リスゴー)がここの女性はみんな傷を持っていると話し、そういう人達を癒そうとしているジェニーは素晴らしい人だと言った。ここで唯一まともに会話できるロバータのことを、ガープは以前に見たことがあるような気がした。彼女は以前フットボールチームでプレーしていた性転換したロバート・マルドゥーンであった。

ダンカン(ネイサン・バブコック)に続いて次男のウォルト(イアン・マグレガー!)が産まれ、ガープもヘレンも幸せで穏やかな日々を暮らしている。腹が立つのは、住宅街の平安を脅かす猛スピードの赤いトラックくらいだ。ヘレンは大学院生を教えることになり、ようやくガープは本屋のショーウィンドウに本が並ぶ売れっ子作家になった。でも、あんまり幸せすぎると、刺激が欲しくなるのが人の常なのかもしれない。

助手席に座っているベビーシッターの女性(サブリナ・リー・ムーア)はガープの好みだった。奥さんの不安は的中。 30 歳のガープは“肉欲”を抑えることができなかった。
夫の裏切りを感じ取ったヘレンが、ベビーシッターと何かあったのかと訊くと、ガープは急に機嫌が悪くなる。図星丸分かりの反応だ。ガープはヘレンを求めたが、ヘレンは学生の作品を読みたいと拒絶。それは、ヘレンに恋焦がれているマイケル・ミルトンという学生のものだ。

家の庭で、ガープと子供達が騎士、ロバータがお姫様を演じてチャンバラごっこ。ダンカンとガープが相打ちして死ぬ演技をするのを見て、ウォルトは自分も死ぬ役がしたいと言った。ガープはウォルトの願いをきいて、ウォルト卿に死ぬチャンスを与えてあげる。夕食の準備をする時間になり、遊びは終わり。その頃ヘレンは帰宅しようと大学の駐車場に。帰ろうとヘレンが車に乗るが、車が動かない。隣の車に乗っているマイケル・ミルトンが送りましょうかとヘレンを誘った。

帰宅したヘレンは、ガープの用意した夕食を家族と一緒に食べる。ガープは上機嫌で、ファミリー・プロジェクトとしてクリスマスの作品を書くことをヘレンに話した。提案はダンカンで、絵はウォルトが描くと楽しそうなガープを見て、罪悪感を感じるヘレン。

恋人と別れて気分的に滅入っているロバータは、クルーズツアーに出る。「私も何か書ければ気が晴れるのに。」とガープに話しながら、ロバータは夕暮れ時の海を見た。性転換で女のカンが身に付いたのか、ロバータはなにか不吉な予感を感じ取る……。

ある日、買い物を終えたガープが家に帰ると、玄関にマイケルの恋人マージが立っていた。緊張してうまく話せないマージはガープに手紙を渡して去っていったを

妻の不貞を知ってしまったガープは怒りに燃える。帰宅したヘレンは、机の上のマージからの手紙に気付き、愕然とする。ヘレンはマイケルに電話をかけ、別れを切り出した。受け入れられないマイケルは、ヘレンの家に行くと言う。

マイケルを家に入れるわけには行かない!ワイングラスとシャンパンのボトルを持って車から出てきたマイケルに、ヘレンは車の中で話をするように頼む。子供達と映画館へ行ったガープは、公衆電話から家に電話するが、誰も出ない。映画の途中だったが、気が気でないガープは子供達と家に戻ることにした。車の中にいるヘレンは、 2 杯シャンパンに付き合ったからと、マイケルに帰る様に言うが、別れたくないマイケルは帰らず、かえって興奮を昂ぶらせるばかり。ヘレンはこれが終わったらもう帰ってと約束させ、フェラする。

映画館からの帰り、家が近づいてきたカーブ付近で、子供達は車のライトを消してもらいたがった。空を飛んでいるような感覚に歓喜する子供達。子供達にノセられ、ガープは車のスピードを上げた。ウォルトが喜んで“ It's like a dream! (夢みたいだ!)”と言った瞬間、車は停めてあったマイケルの車に激突した。

船旅ツアーを中断したロバータが急いでジェニーの邸宅に戻って来て無残な光景に愕然とする。ヘレンはアゴに矯正器具を付け、ガープは舌とアゴを縫って口を利くことができず、ダンカンは右目を失い、そしてウォルトは亡くなってしまった。ロバータは、自分の場合は手術室で取ったけど車の中で噛み千切られたマイケルに同情するのだった。そして、ガープはヘレンを許せないでいる。

やがて、ガープは出版社の忠告を無視して、エレン・ジェームズ事件の抗議運動をするフェミニストを批判するルポ『 エレン 』を書いた。ヘレンが女の子を出産。再び喜びを取り戻す家族。ジェニーが取り上げたその赤ちゃんは、ジェニーと名付けられた。

息子夫婦も落ち着きを取り戻したので、ジェニーはいよいよ政治運動に身を乗り出す。ニューハンプシャーの知事選に立候補することにしたのだ。海辺の家を出発するジェニーは、ガープに「お前を産んで良かった」と言う。到着したヘリコプター。ガープは「父親なんて必要なかった!」と叫ぶが、その声はプロペラの轟音にかき消されてしまう。ジェニーが去った後、海を見つめるガープは運命を感じ取ったようだ。

演台に立ったジェニーの横で、ボディガードのロバータは不安げに周りに注意を払う。しかし、テロリストの銃口がジェニーに向けられているのに気付いた時はもう遅かった。

ガープは、“女性改革者追悼式”として政治的に祭り上げられたジェニーの葬儀にほ出ないほうがいいと、ロバータやヘレン、出版社から忠告を受ける。ガープの著書『エレン』は、エレン・ジェームズ事件抗議運動の支持者たちから批判の的になっているからだ。怒れる彼女達の前に姿を現せば、どんな目に遭うか分からない。しかし、ガープは今は大勢の人たちと悲しみを分かち合いたいと出席を主張した。ヘレンに抱かれた赤ん坊のジェニーが泣く。

女性ばかりのジェニーのお葬式。参列席には安全のため女装したガープがいる。そんなガープの存在に気付くのは、あのクレイジー女、プーだ!プーは立ち上がり、彼を指差して“ガープ!”と舌を切った声で叫んだ。式場はパニック。ガープはロバータとあの時の売春婦らに守られながら、非常口から出て行く。ビルの通用口が近づいてくると、ショートカットの女性が手にしていたガープの著書『エレン』を見せた。その女性は口が利けない。彼女こそエレン・ジェームズなのだ。独善的なフェミニストのせいで、多重の苦しみを背負わされてきた。エレンは感謝の意を込めてガープの頬にキスをした。ガープは彼女と話がしたかった。しかし、エレンはすぐさま道路に出てタクシーを拾うと、ガープをその中に押し込んだ。

ガープ一家は新居を購入し引っ越した。最近はヘレンの父親の後を引き継いでレスリング部のコーチをしているガープは、このところ小説を書く気にはならない。思い出だけが頭を駆け巡ると零すガープ。

ガープは学生達にレスリングを指導し、観覧席にいるへレン。そこに白衣姿の女性が現れたが、誰も彼女に気をとめる様子はない。その女性はガープに近づいていく。そう、狂気のフェミナチ、プーだ。拳銃を取り出したプーは至近距離からガープを3 発撃った。プーはレスリング部の生徒に取り押さえられ、ヘレンは壁際に倒れるガープに駆け寄った。ヘリコプターで病院に搬送されるガープ。死を悟ったガープは傍に付き添っているヘレンに全てを忘れないでいてと微笑んだ。人生最初の記憶は空を飛んだこと。人生の終わりもまた、ガープは空を飛んでいる。
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