エソラゴト

パリ、テキサスのエソラゴトのレビュー・感想・評価

パリ、テキサス(1984年製作の映画)
5.0
果てしなく続くテキサスの荒野を赤いキャップを被った髭面の男が何かに取り憑かれたように黙々と歩を進める。約束の地テキサス州のパリへ向かう為、男は一心不乱に歩を進めるー。

数多あるロードムービーの中でも傑作の呼び声高く、1984年のカンヌ映画祭でもパルムドールを受賞した巨匠ヴィム・ヴェンダース監督作品。

物語前半は弟ウォルトとの兄弟、中盤は息子ハンターとの親子、後半は妻ジェーンとの夫婦の、主人公トラヴィスを介したそれぞれの関係性を描いており、荒涼とした砂漠と真っ青な大空そして上記登場人物達の心の襞をライ・クーダーのスライドギターによって繊細かつ効果的に表現されていて映像美と共に心に沁み入る画作りとなっている。

中盤、幸せだった頃の8ミリ映像を観て以降、ぎこちない会話や下校時にお互い反対側の歩道を歩きながら徐々に距離を詰めていくシーン等、トラヴィスが息子ハンターとの溝を埋めようと悪戦苦闘する場面がとても印象的。

特筆すべき点として妻役のナスターシャ・キンスキーの浮世離れした美しさ。ジャケットアートにもなっている背中からの振り返るファーストシーンのその姿は正に「見返り美人」。息を呑む美しさとはこの事なのかと心奪われる瞬間でもあった。

終盤、トラヴィスがカセットテープで息子ハンターに贈るメッセージ、マジックミラー越しの妻ジェーンに語りかける独白は正に「愛」の真実ー。

傲慢さ、未熟さ、嫉妬心、猜疑心そして喜びや未来への希望ー。4年間彷徨った挙句、トラヴィスが最後に導き出した答えは、親として夫として男として、そして一人の人間としての覚悟を垣間見せる凛とした姿なのだった…。