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ファの豆腐のamuのレビュー・感想・評価

ファの豆腐(2011年製作の映画)
4.3
本日菊池亜希子さん出演作品二本目の鑑賞。オムニバスというのか白い息、つまりは冬をテーマにした二本立て作品は、もう一作を長澤まさみさん主演にて構成されている。髪型から、映画「モテキ」の頃だなと連想させられてしまうところ以外は、ちゃんとこの主人公を演じきってくれていた。

…ファの豆腐…

やっぱり菊池亜希子さんのナチュラルな演技、纏う空気が好きだ。同じく好きな三浦誠己さんも出演されており、今まで見たことのなかったタイプの役柄に、さらなる魅力を発見出来て嬉しかった。

子供の頃、お豆腐だけはお豆腐屋さんで買っていた我が家。母から小銭を渡され、お豆腐を買いに行くのが私の役目だった。偉いね、いつもありがとうね、と白い三角巾をした笑顔の素敵なおばちゃんから手渡されるお豆腐の味は、スーパーのものと違うことなど子供の私の舌ではよくわかっていなかったけれど、四角が少し大きいそれはスーパーで買うよりもとっても特別な感じがして、お豆腐屋さんに行く行為自体が好きだった。小窓から見せてくれるおばちゃんの姿がなくなってしばらく経った頃、病気で他界されたことを知った。私も大人になっていて、地元を離れたこともあり、おばちゃんに感謝の言葉も何も残せなかったけれど、何十年経った今でも、お豆腐といえば私にはあのお豆腐で、あのおばちゃんなのだ。この作品を観ておばちゃんを思い出し、同じものは手に入らないけれど、今夜は湯豆腐にしようと思った。

また作中、幼なじみのかっちゃん(三浦誠己さん)への恋心について、新しい下着を買いに行ったり、連絡がつかないことへ気が気じゃなくなったりという心理状態が痛いほどリアリティがあり、女なあっこちゃんの演技もこれまた自然体で素晴らしかった。かっちゃんのように早い段階で、え?ていう理由でバッサリ切ってくれるとありがたいですね。音信不通になるとか、本命彼女の存在を隠してたまに抱くとか、大抵そういう男が多いので何度も言っちゃうけどバッサリ切ってくれた方がこっちは楽に死ねます。笑


…冬の日…

冒頭にも書きましたが、完全に映画モテキのみゆきちゃんそのまんまのルックス(ヘアスタイル)の長澤まさみさんなので、シンクロしそうになりますが、ちゃんと演じ分けております。笑

自身が写真の仕事にたずさわっていたことや、フィルム撮影を趣味にしていること、周りにカメラをやっている人間が多くいることもあって、この主人公の状況や思いもまた私的にとてつもないリアリティが溢れていた。ネットで勃発する問題も含めて、コンテストへの焦りや被写体との関係性、撮りたいか撮りたくないか、など。なんでもなくiPhoneを取り出してパシャとやる感覚はもはやまるきり持ち合わせていないので、うまいんでしょ、撮ってよ!なんて言われても、自分の気持ちが動かなければシャッターは切れない。

作中、元カレのお母さん(風吹ジュンさん)の言葉や気持ちに動かされ、撮りたい!に変わった瞬間の長澤さんの表情がとても巧くて、ぐっときた。ライカのシャッター音、最高。最後のナレーションとしての言葉で、ああもっと残さなくてはと、お豆腐屋さんのおばちゃんを思い、写真について思い、胸に響き、つまる素敵な二作品でした。
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