Melko

ツバルのMelkoのレビュー・感想・評価

ツバル(1999年製作の映画)
3.7
シルク・ド・ソレイユの物語を隙間見てるような感覚。
水と船と男と女。
翻訳する必要の無い物語。

セリフはちょこちょこあるものの、字幕では表示されない。
英語とフランス語を掛け合わせたらしい監督独自の言語、なるほど、字幕なくても何て言ってるか、何となくわかるわ。

温水プール?で働くアントン。仕事に真面目なんだけど要領が悪め。そこはかとない童貞臭…でも瞳は純粋。船が好き。
その父親がオーナー?盲目で、アントンに厳しい。
もう1人の息子グレゴール。こいつが最後まで強欲で自分のことだけ考えてる、the ヤな奴。ラスト一瞬だけどあの展開は、ざまあ。
受付のおばちゃん。入場料を払えなさそうな客からはボタンをもらったりするなど融通効かせられる大人。

ある日やってきたのは、足の悪い船長風の老人と、美人な娘。娘の名はエヴァ。父親が名を呼ぶのは一瞬だけど、一目惚れしたアントンが確かめるように「エヴァ…」と言うので、彼女の名前がハッキリわかる。

レバーがいっぱいで、動かすのが大変そうなボイラー
壁や床が剥がれ落ち、安全基準を何も満たせてないボロボロの温水プール
監督が蚕の位置で見つけてきた、望遠鏡や舵など、味のある小道具の数々
中世の大衆浴場のような、雰囲気抜群のプール
ミニチュアと実写が交互に繰り出されるヘンテコ設計に、アフレコの音声

青色、緑色、オレンジ色など、場面ごとに単色でくるくる変わっていく画面が独特
そして、上から下から斜めから、カットの角度がバンバン変わるのも大きな特徴
長い螺旋階段を下るときは上から、直線の階段を下るときは下から、特定の人物が印象に残る動作をしているときはその人に寄ったカット
映像を作る人にはとても参考になりそうな技巧とカットの数々

盲目の父親に、賑やかな音声を聴かせたり、浮き輪を投げて人が飛び込んだかのように思い込ませ、騙し続けるアントン
父親から何度ぶたれても、プールから出て行こうとしないアントン
エヴァという、綺麗で魅力的な女の子と出会い、夢中になる彼のことを弄ぶかのようなエヴァの振る舞い方に終盤までイラッとしてたけど、お顔が可憐なのと、金魚との全裸での遊泳シーンがとてつもなく神秘的で、結局のところ許せてしまった。身体が絶妙に肉感的なのも魅力の一つ。ヌードのシーン撮影は監督だけで撮影するなど、色々配慮されてたらしい。

あと、ただただ図々しく見えた浮浪者たちが、監査のシーンで大活躍したのは良かった。

同じ場面をカットごとに違う場所で撮るのは、緻密さが要求されそうで、すごいアイデアだと思う。…一方で、水浸しのはずの床が乾いてる…など多少の矛盾は、まぁ良いかで進める強引さも併せ持つ。笑
CG無しのアナログ撮影、影になってる建物は実は厚紙だったり、コメンタリーでアイデアを聞くのも面白かった。

内容は考えずに感じること。
画だけ見て楽しみ、ある程度の答え合わせをしつつ、制作にまつわる話も観れることで、たっぷり2度楽しめた。
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