akrutm

ツバルのakrutmのレビュー・感想・評価

ツバル(1999年製作の映画)
4.5
架空の国にある屋内プールで起こる騒動を台詞なしで描いた、ファイト・ヘルマー監督の長編デビュー作となるファンタジー・ドラマ映画。

主人公のアントンは、盲目の父親カール、従業員のマルタおばさんとともに屋内プールを営んでいる。アントンはプールのある建物の外に出たことがなく、いつか船に乗って旅に出たいと思っている。そんなある日、元船長のグスタフが娘のエヴァを伴ってプールを訪れ、アントンはエヴァに恋をしてしまう。一方で、アントンの兄はこの地域の再開発のためにプールを閉鎖させようと画策する。というようなストーリーを、セリフを排除して俳優たちの演技と映像だけで表現していくという実験的な作品である。無声映画に似ているとも言える(例えば、誇張された演技などの共通点がある)が、本作ではセリフ以外の音や劇伴は通常の映画と同じように使われ、重要な情報を与えているので、無声映画ではないだろう。

ファイト・ヘルマー監督は、自分が目指しているのは翻訳(字幕や吹替)しなくても世界中に通じる無国籍な映画を作ることだと語っている。その実現方法として、本作のようなセリフを廃した映画にチャレンジしているということになる。当然、セリフなしで細かい点まで伝えるのはなかなか難しく、ストーリーも最大公約数的な大雑把なものにならざるを得ないので、人によって好き嫌いは分かれるだろう。でも、小説などの言語芸術にはない映像芸術の魅力や可能性を知り、その限界を追求する上では意義のある試みであり、個人的にはとても好きな作品である。2018年の『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』でも同じ手法を用いていて、こちらはモノクロがメインの本作とは異なるカラフルな映像が魅力的でもある。

すべての出演者は世界各国で行った数多くのオーディションで選ばれたそうである。主役を演じるドニ・ラヴァンの怪演は相変わらず素晴らしいが、チュルパン・ハマートヴァの演技(表情による表現の仕方もグッド)と可愛さが出色である。ちなみに、二人とも本作から約20年後『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』にも、脇役として出演している。

本作の DVD では字幕もついていて、そこではヘルマー監督の解説を見ることができる。(ドイツ語での監督の音声もついている。)このシーンはどういう意味なのかとか、そのシーンの撮影はどのようにしたのかとか、監督の意図や舞台裏などを知ることができて、なかなか面白い。作品そのものを感じたかったので字幕を非表示にして鑑賞したが、次からは字幕を表示してじっくりと見てみたい。
akrutm

akrutm