ヘルツォーク作品にしては物足りないけどストーリーは面白かった。実話に基づく物語で素直に作ったという印象。
1932年、ヒトラーがまだ政権を握る少し前。ベルリンで「オカルトの館」というショーを営む占い師ハヌッセンと、そこで怪力男として出演したポーランドのジシェ。2人のユダヤ人の物語。
ジシェの賢い弟が冒頭で言う「雄鶏が服を着ても雄鶏は雄鶏」という言葉。雄鶏=ユダヤ人として置き換えられる。こんな言葉を幼い少年が言うので惹きつけられた。
↓以下、ネタバレ含みます。
ハヌッセン役にはティム・ロス、千里眼を持つというイカサマ占い師にピッタリ。ハヌッセンはユダヤ人であることを隠しナチスに取り入る。今作はヒトラー政権前の話ですが、ヒトラー政権後は演説の指導などもした人物でのちに暗殺されています。ジャケ写はWikipediaのハヌッセンの写真と似てる。
ジシェはポーランドの鍜冶屋でしたが、力持ちが話題となりスカウトされ、ベルリンでハヌッセンのショーに出ることに。ハヌッセンとは逆で、ユダヤ人であることを公言し、ユダヤ人に人気を博し「現代のサムソン」と呼ばれるようになる。まもなく訪れるユダヤ人の危機を予測して口外しますが、誰にも信じてもらえずヒトラー政権前にあっけなく亡くなります。
ジシェ役は本物のフィンランドの世界怪力チャンピオンで、普段は大工さん。俳優業はこれが初めてで、木訥な雰囲気が魅力的でした。
ショーのピアニストでハヌッセンの愛人役を演じたアンナ・ゴウラリは、コンクール優勝多数の国際的ピアニスト。監督が惚れ込んで直接オファーしたそうです。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を演奏するシーンは素晴らしかった。
本物にこだわるヘルツォークが今作ではキャスティングにこだわったのだと思います。ナチを連想させる赤い蟹の大群もインパクトあったな。
まだユダヤ人がナチ党員と同じ劇場でショーを観ていられた時代。ホロコーストの惨劇が起こるのも時間の問題だということが伝わってきました。
ホロコーストで親族をたくさん亡くしているスタッフ(製作の人かな?)からジシェのエピソードを聞いた監督が、その話を映像化したようです。心理描写が浅くてインパクトには欠けますが、ヒトラー政権前の話は珍しいし、ナチスものというよりは1人のユダヤ人青年の物語として楽しめました。
音楽はハンス・ジマー。