このレビューはネタバレを含みます
名作監督イヴ・アレグレ作品。当時の人気俳優ジェラール・フィリップが主演、ヒロインはミシェル・モルガン。なんと原作はかのジャン=ポール・サルトル。
メキシコの漁村——といっても観光客が足を伸ばすような規模の町。そこでの不意な伝染病で客死してしまった亭主を嘆き、そこへ不器用な形でその妻ネリー(ミシェル・モルガン)を案じている男ジョルジュ(ジェラール・フィリップ)の物語。
ラテンの国は経済的には下層の生活が多くそんな村では常に音楽が流れ踊りがある——しかしそれは「そんなふうにでもしなければやりきれない」思いからなのかもしれない。そう考えると物悲しい音色にも思える。
今今の映画とは違い下世話でわかりやすい描写がなく、ただし人物の感情の移ろいは抑えており、最初ネリーは財布泥棒と疑念を抱いたりいかがわしい存在とさえ思っていたジョルジュを様々な角度から理解を深め、次第に思いを寄せてゆく、ジョルジュも過去に瑕疵を抱えた男であり、そんな求愛を容易に受け止める事が出来ない。
お互いに葛藤を充分に超えた覚悟で抱擁する姿が実に美しい。その時に我々も二人を応援していた事に気づく。
無用な物語の作り込みがない点が好ましい「大人の映画」といえる。