フラハティ

修羅のフラハティのレビュー・感想・評価

修羅(1971年製作の映画)
4.3
暗闇で鮮烈。復讐へ。修羅の道へと。


どこまでも先が暗闇で、抜け出すことができない…憐れ。
百両の金を巡り、入り乱れる愛、憎悪、情け、希望、悲しみ、無情、修羅。
長編に関しては寡作な松本俊夫であるが、本作は時代劇の趣を取り入れながら、歌舞伎的でもある。これはあれかコメディでもあるのか。

中村嘉葎雄の達者ぶりは見事で、序盤はアホかこいつと思いながらも後半になると復讐の鬼となる男から目が離せなくなる。
鬱陶しいくらい繰り返す映像や、まるで歌舞伎のようなわざとらしさが物の見事にはまっていくんだよなぁ。グロテスクにも思える惨劇も、この演出でまだ観る元気が出るぜ。樽のシーンは笑ったぞ。
脚本的には愛憎劇&復讐ものではあるが、このショットのオリジナリティが本作の肝であるし、松本俊夫のすごさを語っている。単純にATG作品なので予算がないものと思われるが。
あと特筆すべきは音。
静寂のなかで沸々と沸き上がる数多の音が印象に残る。彼らが語る日本語も美しく、本作ほど日本に生まれて良かったと感じたことはなかった。


冒頭より日が沈み、世界が黒く染まった江戸で繰り広げられるこの悪夢とも呼ぶべき惨劇は、何十年何百年経ったとしても繰り返されていく。
己の利益ばかりを求め行くことは、どんな都合とて、人を切り捨てることに他ならない。
巡り巡った金が落ち着いた場所も、愛から生まれてしまった憎悪も、人が愚かにも産み出してしまったに他ならず、私益のために人を欺くことの傲慢さを強く感じるし、復讐をすることで生まれるものは何もない。空虚なだけ。
やっぱり人は人を尊敬すべきだし(尊敬するところのないやつはしなくてもいいんだが)、全うで誠実な生き方をしていけば、このような惨劇を生むことはない。
単純なことだが、人間は愚かだから同じことを繰り返し続ける。それこそ修羅の道。
松本俊夫が伝えたかったこともシンプルにこういうことなんだと思う。
当時の日本や世界の情勢につながった本作は、同じ苦しみが繋がっていく残酷さを伝える。
貧しく、人を信じても仇で返される。赦すことが出きるのはやはり強さだと感じる。心だけは豊かでいたいものだ。
『薔薇の葬列』も観ないとな…。
フラハティ

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